ヌイグルミ
「今日、紅にこんなのもらっちゃったんですが」 カカシが見せたのは、犬のヌイグルミだった。 「うわぁぁぁ、可愛いじゃないですか!」 ヌイグルミにじゃれつくイルカを見て眉をひそめるカカシ。 「可愛い感じの物、好きでしたか?」 「いいえ、まったく。好感度上がるかと思って」 ヌイグルミを脇に置いて、どこまでも真顔である。 「置いていかれても困るんで、ちゃんと持って帰ってくださいね」 「もう一回じゃれてみると、愛着わくかも知れませんよ?」 「じゃあ、あんたがしてください。と思ったけど、やっぱり止めてください。想像したら普通にキモかったです」 「その意見には同感です」 「ところで、なんで紅先生はこれくれたんでしょうね。ナメクジやイモリでも仕込まれてるんじゃないですか?」 「仕込む意図が分かりません」 「忍なんだからプレゼントにも一捻り欲しいところです。俺ならしますね!」 「いらん独創性を発揮される方の身にもなってみてください」 「まぁ愉快」 「明らかに発揮する側のセリフじゃねぇかよ」 「そうですか?」 「俺がマトリョーシカに毛虫仕込んで渡したら、どうします?」 「逃がしてあげます。小さいからといって、命を蔑ろにしてはいけませんよ?」 「ヌイグルミにナメクジ入れてもおかしくない男に、命の尊さ説かれてる俺って滑稽ですよね」 「そんなシチュエーションがなくても、あなたは滑稽ですが」 「よし、ヌイグルミのように物言わぬ置物にしてやるから、遠慮なくかかってこい」 イルカは眉根を寄せて、小首を傾げる。 「その置物……飾りたいですか? センス疑われますよ?」 「なんでそんなところだけ冷静なんだよ……」 脱力するカカシの肩にヌイグルミを置いてみた。しばし眺めてからイルカが呟く。 「絵的に微妙」 「あんたはいったい、何がしたいんですか……」 「はたけカカシ上忍とヌイグルミの奇妙なコラボで、クスリと笑えるかと思ったんですが、実際行動に移してみるとあんまり……。あんたには本当にガッカリです」 「あんたの口からヌイグルミを生やしてあげますよ」 ヌイグルミ片手に、にじり寄るカカシ。 返り討ちにすべく、足場を確保するイルカ。 紅が福引きの残念賞でもらったヌイグルミにより引き起こされたこの戦いは、まだ始まったばかりである―― 2008.6.22 |