交渉
「カカシ先生の好みのタイプを教えてもらっていいですか?」 メモとペンを片手に、家主のイルカが訊いた。 「……そんなの訊いて、どうするんです?」 「売ります」 「躊躇いもなく言い切りやがったよ」 イルカは少し考えてから訂正した。 「……売るのは冗談で、カカシ先生のプロフィール帳に情報を追加します」 「そのプロフィール帳とやらを今ここで見せてみろ」 「無茶言わんでください」 「すぐバレると分かっていて、なぜ嘘を吐くのか」 イルカはニヤリと笑う。 「すぐにバレる嘘だとカカシ先生が思い込んでいるものの中には、いくつかの真も含まれているんですよ。そう、嘘と見せかけた重大な真実が……!」 「あんたの嘘が仮に真実だったところで、重大でもなんでもないんですが」 「うみのイルカは実は既婚者だった!」 「既婚者なのに、こんな生活してるイルカ先生に同情します」 「驚愕! 砂かけ婆は存在した!」 「なんですか、その煽り文句」 「驚きのチョコレートパワー! 毎日食べれば5キロ減!」 「どこの菓子メーカーの回しもんだよ」 イルカは俯き、カカシの発言を無視して沈思黙考。やがて顔を上げたかと思うと、やけに真面目な表情をしていた。 「個人的には2番目がお勧めです」 「何のお勧めだよ。っつーか、『嘘と見せかけた重大な真実』って話がどっか行っちゃってますけど」 「過去に囚われすぎてると、幸せな未来を掴めなくなりますよ?」 「やかましい、大きなお世話です」 「せっかく心配してるフリをしてあげたのに、酷いです!」 「本当に酷いのはどちらか、もう一度よく考えてみてはいかがでしょう」 イルカは考え、そして遠くを見つめる。 「そう、悪いのは社会」 「いやいやいやいや、何でもかんでも社会のせいにするのは如何なものかと。と言いますか、そんな話の流れじゃなかったでしょうに」 「そんな流れは塞き止めて、さっさと当初の目的を達成したいと思います」 ペンとメモを構えて、カカシを見る。 「……俺の取り分、いくらですか?」 「明日の夕飯代の足しにしますんで、現金での支払いはご勘弁を」 「一人で夕飯食べに行って『誰も二人の夕飯代の足しだなんて言ってないじゃないですか』なんてのはナシですよ」 こくりと頷くイルカ。 それを見て頷くカカシ。 どうやら交渉は成立したようだ。 なぜバレたんだろうか。イルカは心の中で呟いたそうだが、カカシは知る由もない。 2008.6.12 |