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イルカが何やら小難しい顔をして本を読んでいる。 カカシはお茶を差し出しながら訊いてみた。 「ガーデニングでもするんですか?」 「あんたの中の俺のイメージ、ちょっと変ですよ」 「イルカ先生は花を愛する、清い心の持ち主なんです」 「それはどこのイルカ先生ですか?」 「まだ見ぬどこかの……」 「妄想かよ」 「世間から見れば妄想かもしれませんが、俺的にはリアルです」 「真顔で言うのは止めてください。ヤバい香りがしますんで」 「大方、蛙の養殖方法が載ってたり、ゲテ食の本だったりするんでしょ? それならいっそ、妄想のイルカ先生に出張っていただいた方が……!」 「あんたの中の俺のイメージ、やっぱり変ですよ」 じゃあ何の本よ、と身を乗り出す。 「ゲノムの本ですが、なにか?」 「普通すぎて驚きました」 「そうでしょうね、嘘ですから」 「嘘吐く必要性が欠片も感じ取れませんでしたが」 「多分、綿密な計算の上で口から漏れ出でたんでしょう」 「多分の時点で嘘満開じゃねぇか」 「ちなみに読んでたのは、『上手な嘘の吐き方』という本です」 「嘘でしょ」 「はい、そんなセンスのないタイトルの本なんて、購買意欲わきませんよ」 「どす黒い感情が芽生えそうです」 「芽吹いたら育てたいと思います」 「栄養過多で異常成長する事、うけあいですね」 「カカシ先生、自己の感情をコントロールできないなんて人としてどうかと思いますよ?」 「元凶がもっともらしい事を言いやがって」 「広い心を持つのです。そして俺に寄進したならば、あなたに幸せが訪れるでしょう!」 イルカが両手を広げ、天をあおぐ。なぜか恍惚とした表情を浮かべていた。 「そっち系の本かよ」 「大正解」 差し出した手は、当然の事ながら、カカシに叩かれたそうな。 2008.5.22 |