包み

カカシが窓の外を指差した。

「今日は月が綺麗ですよ」

イルカは月を見やり、哀れむように言った。

「そんなもんで腹は膨れませんよ?」

「知っとるわ。まるで俺がおつむあったかい奴みたいじゃねぇですか」

「違うんですか!?」

「そんな風に俺の事を見てたんですか!?」

「……真実は闇の中」

「葬るな」

「まぁ、心底どうでもいい話はおいといて」

「どうでもよくはありませんが、おいときましょう」

二人の視線は卓袱台の上に置かれた茶色の包みに注がれていた。

玄関のドアノブに袋に入って吊ってあったのをカカシが発見したらしい。

「なんでしょうか、これ」

イルカがつついてみる。

「とりあえず、バレンタインをすっかり忘れてたイルカ先生の、ちょっと遅い俺へのプレゼントじゃない事だけは分かりましたが」

「なぜ俺がやらねばならんのか」

「なぜくれんのか」

「父の日になら何かあげてもいいですよ」

「俺はどこのお父さんですか」

「そのへん歩いてる子どもの」

「人聞き悪いな。っつーか、どうしてあんたは俺の評判を落としにかかるんですか」

「ムカつくから」

「直球すぎるだろ」

「モヤモヤとした感情が渦巻き、それが霧のように口から漏れ出でた結果とでも申しましょうか」

「申さんでいい」

「俺も羨望の眼差しを向けられたいんですよ!」

「知るか! 人を貶めても、羨望の対象にされんだろうが!」

イルカは稲妻に打たれたかのような驚愕の表情を浮かべた。

「か……カカシ先生、俺、間違ってました!」

ガバリと抱きつくイルカと避けるカカシ。

「なぜ避ける」

「ほんの少し殺意を感じたもんで」

「里での羨望の対象を一人ずつ潰せば、やがて自分もランクインするであろうという、俺のどす黒い感情に気付いてしまったんですね」

「努力が変な方に向かっちゃってますよ」

「俺のために大人しくボコられてください!」

「やかましい、かかってこいや!」

ちょうど同時刻、隣の住人がイルカ宅の戸を叩こうとしていたが、盛り上がり始めた室内の様子を察知して静かに帰っていった。

「よりによってこっちの家と間違うなんて……」

付き合い始めた彼女からのプレゼントが彼の手に渡ったのは、それから三日後のことだったそうな。


2008.2.28

 

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