つづり

イルカは茶を飲んで一息つきながら、真顔でカカシに言った。

「俺、一度見てみたい物あるんですよね」

「ほぅ、なんでしょう」

「人面瘡」

「俺も見てみてぇよ」

どうでもよさげな口調のカカシに、イルカは卓袱台を叩いた。

「俺は本気なんです!」

「夢見る子どもか、あんた!」

「人面瘡を本気で見たがる子どもがいたら怖いですよ?」

「年齢関係なく怖ぇよ」

「つまり俺が怖いと」

「どこまで本気か分からないという点では怖いかもしれません」

「はっはっはっ、すべて冗談に決まってるじゃないですか」

イルカは爽やかな笑みを浮かべたが、目は笑ってなかった。

嫌な予感がしたのでカカシは釘をさす。

「寝てる間に俺の脛あたりに顔かいて『人面瘡〜』とかしないでくださいよ」

「発想の乏しい悪戯ですね」

小さく舌打ちが聞こえたような気がしたが、カカシは無視することにした。

次の日、カカシはいつもより早く目が覚めた。

脛を確認する。

無事だ。

手鏡をのぞいてみる。

無事じゃなかった。

「あんたって人は!」

寝ているイルカの肩を掴んで揺らすと、がっくんがっくんと頭が前後して少し怖かった。

「……朝からテンション高くてついていけません」

目が覚めたイルカが不機嫌そうに言う。

「やかましい! 人様の額に落書きしおってからに!」

「てっきり人面瘡もどきを描くと思ってたから、意外だったでしょ」

「意外もクソも、脈絡なさすぎて驚いたわ!」

「それにしてもよく気付きましたね。さすが上忍」

イルカが素直に感心する。

「上忍どころか忍すら関係ねぇよ。しかもなんだ、このdreemって……」

イルカはじっとカカシの額を見つめる。やがて得心がいったように頷いた。

「油性です」

「訊いてねぇよ。っつーか油性かよ!」

「ほんとテンション高いですね。勘弁してください」

「誰のせいだぁ!」

これは、寝起きから元気なカカシと、エンジンがかかってないイルカのちょっとした朝の風景。


2008.1.25

 

close