置物

「教え子から置物もらいました」

イルカは昔異国の地で輸出されていたという人魚のミイラのような物を持っていた。手乗りサイズである。

「可愛い彼女ができてよかったですね」

カカシは先程まで読んでいた本に視線を戻した。

「可愛い……つまりこれがカカシ先生の理想の女性像なんですね。分かりました。教え子からもらった非常に大切な置物ですが、断腸の思いであなたに差し上げます」

「本当に残念ですが、家訓があるのでもらえません」

寝転んでイルカと視線を合わせないようにしながら、カカシは本を読み進める。

「ちなみに、その家訓とは?」

「呪いの置物には近付くな」

「俺の教え子がくれた物に、なんて暴言を吐くんですか」

「吐いた俺を誰が責められよう」

イルカは真顔でしばらく黙考し、「それはさておき」と話を流した。

「イルカ先生……自分がいらない物を人に押し付けちゃダメですよ」

「責めなかったのは俺の気遣いですが、なにか?」

「嘘満開だな、おい」

「嘘だなんて心外ですね。俺は前向きにこの置物の有効活用について考えていたんですよ。ゆえにカカシ先生の失言を不問にした。これが先程の妙な間のカラクリです」

「カラクリの意味を辞書で調べて、出直してきてください」

沈黙が訪れた。

カカシは訝しげにイルカを見た。人の背中に置物を乗せようとしている真顔のイルカと目が合った。そして静かに乗せられた。

「新手の嫌がらせですか?」

「お客さん、とってもお似合いですよ」

「やかましい。似合ってたまるか」

「このアクセサリーがあれば、あなたも里の人気者です」

「指差されて笑われたりするのを人気者と定義しているなら、確かに人気者になれるでしょうね」

「背中からミイラ生やして歩く人間なんて、気味悪すぎて俺なら指差せませんけどね」

「あなたの頭に生やしてさしあげましょうか?」

「そういう趣味の方だったんですか?」

「んな偏った趣味ねぇですよ」

「つまらない人ですね」

「つまらない人間であることに誇りが持てそうです」

「今のあなたの様はとても愉快ですけどね」

「さっさとどけてください。落として壊したらどうするんですか」

「捨てますよ」

一瞬の間を置いてカカシが驚く。

「教え子からの贈り物じゃないの!?」

「捨てといてくださいという言葉とともに、もらいましたよ、ゴミを」

「非常に大切な置物ってセリフがあったような気がしましたが!?」

「気のせいです!」

「んなわけあるか!」

「斬新なデザインだったんで、カカシ先生に見せてあげたくて……。こういう些細なことでコミュニケーションとるのって大切なんですよ?」

イルカは寂しげに微笑んでみせた。

「良い話風に終わらせようとしてんじゃねぇですよ」

通じなかった。

「カカシ先生、手強くなりましたね」

晴れやかな笑顔でイルカが手を叩く。

「嬉しくない褒め言葉をありがとう」

カカシは疲れ切った顔で再び本を読み始めた。

夕飯ができるまでの二時間、カカシの背中には人魚のミイラが鎮座していたそうな。


2007.12.22

 

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