部屋

「今日は平和だな……」

カカシは自宅で寛いでいた。久々に帰ってきたからだろうか。部屋に違和感を覚える。そして何故か狭くなったような気がしていたが、もともと寝るだけの場所でしかなかったため、所有物など記憶していない。ゆえに気のせいという事にしておいた。

「平和を乱す使者登場!」

「自覚あったんですね」

突然玄関から飛び込んできたイルカに左手を挙げて挨拶する。

「カカシ先生が自宅にいるのって珍しいですね。人の気配がしたから、一瞬、臨戦態勢取っちゃいました」

「あんた、うちの番犬ですか……」

「忠実じゃないのがウリです」

「犬を否定するところでしょ」

「否定し続けても何も生まれませんよ?」

「生まれませんけど、守られる物はあるかもしれませんね」

「まぁ、難しい話はさておき」

「難しくねぇですよ」

「たぶん難しい話してたんじゃないかなぁ、という推測のもとで話を変えます」

「つまり人の話を聞いてないって事でしょうが」

「そよ風のワルツのように爽やかなBGMとして聞き流しただけですよ」

「腹立つ表現だな、おい」

「腹を立てるとエネルギーが消費されてお腹空きますよ。ちなみに俺は腹を立てたわけではありませんが、お腹が空いたので自分の家に帰ります。カカシ先生は本日の夕飯どうされます?」

「本を取りに寄って、ちょっと寛いでただけなんで、イルカ先生の家で食べたいんですが……」

カカシはそこで怪訝な顔をした。

「その前に、少々気になることがあるんで、質問よろしいでしょうか」

「却下します」

「何でここにいるんですか?」

「無視するくらいなら、訊かないでくださいよ。拒否権あるのかと思っちゃいました」

「何しにきたんですか?」

「掃除しにきたんですよ。カカシ先生、最近うちに寄生してるみたいだったんで、以前から掃除するために――といっても埃払う程度ですが、何度か上がらせてもらってました。物は動かしたりしてませんけど、やっぱり無断でするのは良くなかったですよね。勝手にごめんなさい」

「いや、こっちこそ気を遣ってもらってたみたいで申し訳ない。掃除、ありがとうございます」

「ホラ話に感謝の言葉をいただいてしまって、ごめんなさい」

「もっと謝ってください」

「自分の部屋の掃除もしない俺が、人の部屋のなんてするわけないでしょうに」

「開き直らんでくださいよ」

「ちょっとした悪戯心ってことで。それじゃあ俺ん家行きましょうか」

イルカが玄関を出る。カカシもそれに続いたが、少し進んで立ち止まった。

小首を傾げて振り返る。

帰ってきた時には何もなかったはずの場所に、今はリアルすぎる河童の傘立てが置かれていた。

静かにイルカに向き直る。イルカは真顔でカカシの動向を窺っていた。

カカシが黙って歩き出す。

イルカは同じ歩調で自分の家を目指し始める。

カカシが小走りになった。

しかし、イルカとの距離は縮まらない。

「人ん家を勝手に物置にしてんじゃねえ!」

カカシの怒鳴り声を聞きながら、イルカは加速していったそうな。


2007.11.30

 

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