変わった物
「ちょっと変わった物でも食べたいですねぇ」 カカシは夕飯の提案をした。それを聞いたイルカが立ち上がる。 「そうですか。ではコオロギを乱獲してくるんで、少しだけお待ちください」 「生態系の破壊に繋がりかねないので気持ちだけいただいときますから、ここにいてください。むしろ家から一歩も出るな」 「それだとセミの幼虫すら取りに行けませんよ?」 「さっさとゲテモノから離れろ」 「他に変わった食べ物というと……」 イルカはしばらく考え込み、やがてポンと手を打った。 「賞味期限21年前の缶詰」 「希望が残されてなかったパンドラの箱みたいですね。ところで現物はどこにあるんですか?」 イルカが台所から缶詰を一つ持ってくる。カカシは微笑みながら受け取った。辛うじてサバの二文字が読み取れた。静かにゴミ箱に捨てた。 「せめて中の確認を!」 「あの缶詰の事は忘れなさい。縁がなかったと諦めるんです」 「横暴ですね」 「命の恩人かもしれませんよ?」 「訪れない未来を都合よく想定して恩人面とは、たいした人物ですよ、まったく」 「数十メートル穴掘って、イルカ先生突き落としてから、あのサバ缶を上からぶちまけてあげましょうか?」 「そのあと、ちゃんとカカシ先生も穴に落ちてくださいね」 「すみません。その『ちゃんと』の使い方が高度すぎて、俺には話の繋がりが見えませんでした。むしろ、俺も落ちること前提に話が進んでたという驚きの事実を知りました」 「俺一人で臭さにのたうち回ってたらバカみたいじゃないですか」 「バカを二人に増やして、あんたは一体なにがしたい」 イルカは顎に手をあてて考える素振りを見せた。やがて真顔で答える。 「……べつに」 「……まぁ、そうですよね」 「それより、今うちにある食材で変わった物なんて作れないんですが」 「我儘言って、本当に申し訳なかったです、はい」 夕飯はカレーだったそうな。 2007.11.15 |