フリ
喫煙所で煙草を吸う男が二人。 「喉が痛い……」 カカシが動きを止めて呟く。イルカは少し眉尻を下げて声をかけた。 「風邪ですか? うつさないでくださいね」 「本音をポロリと出す前に、少しは心配するフリくらいしてくださいよ」 「フリだけで良いんですか?」 「えぇ、フリだけ満足ですよ。欺瞞と言われようが、フリだけで救われる心もあるんです」 「……素朴な疑問なんですが、なぜ俺があなたを満足させなきゃいけないんでしょう」 「いっそ『面倒だから断る』と言われた方がマシでした」 「面倒なので、会話すること自体を断っても良いでしょうか」 「歩みよりの精神って大切だと思いますよ?」 カカシが右手を差し出した。 イルカは仕方なくそれを握る。 「初めまして、はたけカカシです」 「個人情報をあなたに知られない方が良いと俺の脳が警告を発しているので、サマンサと呼んでください」 「はい、イルカ先生」 「個人情報って、本人の知らないところでダダ漏れなんですね」 「個人情報が漏れているのと、俺がストーキング行為によって情報を得たのと、シチュエーション的にはどっちがマシですか?」 「世間のみんなと仲良くダダ漏れ希望です。ところで、そろそろ手を放してもらえませんか」 「こりゃ失礼」 カカシの手が離れた。 イルカは自分の手のひらを見つめる。 「それはそうと……」 イルカは顔を上げ、話しかけながら静かにズボンで手を拭った。 「失礼極まりねぇ!」 「いや、風邪が……」 「握手でうつるか!」 「生理的にちょっと……」 「傷つきやすい20代後半なんで、ほんと勘弁してください」 イルカは微笑んだ。 「冗談ですよ」 「分かってますよ」 イルカは真顔に戻った。 「フリだけで貴方の心を救えたみたいで良かったです」 「酷すぎる!」 「じゃあ、そろそろ休憩時間終わりなんで」 「ここで放置するんですか!?」 イルカは愉快な人もいたもんだと思いながら、喫煙所を後にした。 その後、二人はナルトの元担任と教官という形で再会した。イルカは「初めまして」と自己紹介したそうだが、それが本気かフリかは当人のみぞ知る。 2007.10.18 |