仏像

「眠たい季節になりましたね」

そう言ってイルカは欠伸をした。

「あんた、昨日遅くまで何かしてたでしょうが。季節のせいじゃありませんよ」

続いてカカシが欠伸をする。

「あれ? カカシ先生も仏像彫ってて寝不足ですか?」

「夜中に何やってんですか。っつーか、会話の流れがおかしいよ。普通彫らねぇよ。彫ってても何等不思議はないような言い方自体が不思議だよ。狭い空間内にいる二人が二人とも自発的に仏像彫り始めてたら怖いよ。絶対何かに操られてるよ」

「狭い空間で悪かったですね」

「一番つまんないとこに反応しましたね……」

「ぼーっとしてて、他は聞いてませんでした」

「素直なことで」

微笑みながら、カカシがギリギリと奥歯を鳴らす。

「まぁ、不気味な顔」

「素直なのが、いつでもプラス要素になると思わんでください?」

「今日は攻撃的ですね」

「あんたのせいです。夜中に奇妙な音出すから、よく眠れなかったんですよ」

「寝不足くらいで機嫌が悪いなんて、精神の鍛練ができてないのでは?」

「仕事でもないのに、ゆっくり眠れなかった可哀相な俺に対する挑戦ですか?」

イルカは眉を寄せながら首を傾げた。

「たまにはそんな日もある?」

「疑問系なのが腹立ちますね」

「そんな時は弥勒の手を見て心を静めてください」

「難易度高過ぎて理解できなかったです。ごめんなさい」

イルカはこのド素人に、どうやって説明すればいいのか、顎に手をあてて考えた。

「指のしなやかさにゾクゾクしませんか?」

「その発言に対してはビクビクしそうになりましたがね」

「一歩こちらに踏み込んでみるのも勇気!」

「みせたかねぇよ、そんな勇気」

「恥ずかしがらずに」

「そんな後押しの仕方するシチュエーションでしたか?」

「俺の中では」

「間違っちゃいねぇですね」

「まぁまぁ、俺が彫った……いや、木の中に閉じ込められていた仏を解放した一品を……」

「早くしないと無視しますよ」

「これです」

イルカはトーテムポールの成れの果てのような物体をソッと出した。

「イルカ先生、太い木は焼き芋に向きませんよ?」

「燃料にしようとせんでください」

「飾る気ですか?」

「むしろ崇める気です」

「捨てますよ」

「疑問符つけるの忘れてますよ! お伺いたてる前に廃棄確定しちゃってますから!」

「玄関前に放置しといたら、押し売りを阻む結界くらいにはなるかなぁ」

「それ採用。カカシ先生に差し上げます」

押し付けられた。

「いらないなら捨てましょうよ」

無視された。

 

カカシ宅の玄関に置かれたトーテムポール(仮)は、今日も元気に家主のいない家で押し売りを追い払っているそうな。


2007.09.30

 

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