アタック

カカシは居間で家主の帰宅を待っていた。

本のページをめくり、なんとなく時間を潰す。

──と、

「ぐぁぁぁ!」

遠くで悲鳴が聞こえた。

直後、人がすっころんだ音も聞こえる。

沈黙──

どうしようかなとカカシが考えていると、玄関の扉が静かに開いた。

「せ……蝉のファイナルアタックを受けました……」

腰と額を押さえたイルカがのろのろと入ってきた。

「蝉ごときに負けたんですか?」

「額にファイナルアタックですよ!?」

「いや、避けろよ」

「あなたは自分が体験した事がないから、そんな簡単に言えるんです! 地中で何年も身を潜め、凝縮された命の最期を受け止めてやらねば、蝉も報われないじゃないですか!」

「完全に主旨がズレてますね」

「そんな日もあったりなかったり」

「思い付きで物喋らんでください」

「はっはっはっ反省反省」

イルカは匍匐前身で居間へとやってくる。

「どんだけしこたま腰打ってんですか、あんた……」

「ファイナルアタック舐めちゃいけませんよ?」

「ビビッただけでしょう」

「ええ」

「素直ですね」

「時には素直な自分も見せないと、カカシ先生のご機嫌損ねちゃいますから。バランス取るのも大変なんですよ?」

「なに、その『俺の頑張りも認めろよ』的発言。頑張りどころが全てにおいて少しずつズレてんですよ」

「有り難がってください」

「無視かよ。会話つながってねぇよ」

「方向性はどうあれ、あなたとの関係を円滑にするため努力している俺を認めてくれないんですか?」

「その場合、一番重要なのが方向性のような気もしますが……。ところで、打算にまみれた言動を認めろと強要された俺はどうすれば良いと思います?」

「自分の不運を恨んでください。けっして強要した相手を更生させるために愚かな行為に走ってはいけません。なぜならそんな事をすれば言論の自由・思想の自由など、あらゆる『自由』と名の付くものがあなたの前に壁となって立ちはだかるでしょう!」

地面に突っ伏しながらイルカは拳を握り締めている。

「演説終わりました?」

「のってきたので、許されるならもう少し」

「関節技食らうのと、薬を塗ってもらうのと、どっちが良いか選ばせてあげます」

「いやぁ、申し訳ないですね」

イルカはペロリと上着をめくった。カカシは薬を腰に塗ってやる。

「自由の名を借りた暴徒と化した時の対処法は……!」

「どっちか選べっつったろーが!」

カカシの腕の血管が一瞬だけ浮く。その一瞬でイルカは静かになった。口から泡を吹いているようだが、気にしない事にする。

薬を塗ってやりながら、今日の夕飯は何かなぁ、などと考えるカカシの姿がそこにあったそうな。


2007.08.23

 

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