夕飯時
部屋で暴れる大人が二人。 脳天に一撃を食らって倒れ伏すイルカ。 勝利の虚しさを噛み締めるカカシ。 いつも通りの光景がそこにはあった。 「さて、運動して腹も減ったんで、夕飯にしましょうか」 カカシは倒れているイルカの肩を二三度叩いた。反応がない。肩を掴んで無理矢理座らせ、前後左右に振ってみる。ちょっと顔が青くなった。激しく振りすぎた事を少しだけ反省する。 ──と、イルカの目が開いた。どこか呆けた顔をしている。 「あなた……誰ですか?」 状況が把握できない。まさにそんな様子だった。 「……まさか、記憶喪失!?」 驚愕の表情を浮かべたカカシの顔面に、イルカの蹴りが綺麗に入った。 「ふっ……これだからドリーム脳の持ち主は」 イルカは嘲りを含んだ目でカカシを見た。カカシはというと、両の鼻からタラリと血を流していた。 「俺はなぜ鼻から血を流しているんでしょう」 カカシは小首を傾げた。 「はて、なぜでしょう」 イルカも小首を傾げてみた。 「おもっくそあんたのせいだろうが!」 「分かってるなら、あえて問わないでください。カカシ先生の記憶が飛んじゃったのかと思って驚きましたよ」 「心配しました?」 「面倒くさいなぁ、とは思いました」 「ちょっと待て」 「待てと言われると、待ちたくなくなるのが人情」 「まるで一般常識のように言うな」 「ノンストップ俺!」 「落ち着け」 「落ち着けと言われると、以下同文」 「微妙に同文じゃないですよ」 妙な沈黙が場を支配した。 「まぁ……そもそもあれしきの演技でカカシ先生が騙されるってのも問題ありですよね」 「おかしな飛び火の仕方をさせんでください。本気で心配したんですから」 「あれですか? 記憶がなくなった俺。責任を感じて世話をするカカシ先生。忍として任務に就く事もできなければ、受付すら満足にこなせなくなり、日々つのらせる不安に苦しむ俺を側で支えるシチュエーションをご希望でしたか? 仕事ができなくなったら、俺、ヒモ!? あれ!? ヒモも悪くないですよ!?」 「待つ気も落ち着く気もねぇな、おい!」 イルカは眉をひそめた。 「……そう申し上げましたよね?」 「うわぁ、腹立つ返しですね、それ」 「腹立つで思い出しました。お腹減ってません?」 「そういえば、夕飯まだでしたね」 「俺は三半規管に与えられたダメージのせいで、空腹感より気持ちの悪さが勝ってますがね」 「俺は大量に流れた鼻血のせいでクラクラしているけれど、腹は減ってますがね」 顔がいやに白い男と、鼻から下が大惨事の男は、この日別々の時間に夕飯を食べたそうな。 これは、夕飯を別でとるのも妙な感じがするので、今度から争いごとは夕飯の後にしようと決めた男たちの物語。 2007.07.08 |