前向き

「雨、鬱陶しいですね」

イルカは窓の外を見ながら言った。

「風流と言えなくもないですよ」

「言えなくもない……つまりはどこかで否定しながらも、現状を受け入れるために心に負担をかけてプラス思考であろうとした末のまとめですね? わかりました。カカシ先生の努力を無にするのは俺も本意じゃありませんし、頑張ってみようと思います」

「まるで俺が自分のセリフで自分を騙そうとしている可哀相な人のように聞こえるのは気のせいでしょうか」

「被害妄想月間ですか?」

「失礼極まりねぇな、おい」

「やはり月間に突入してましたか」

「今の『やはり』はおかしいですよね。明らかに悪意の塊をぶつけられてましたよね」

イルカは答えず、目を細めてカカシを見た。

「うわぁ、すげぇ嘲りのこもった目ですね」

「慈しむ目と言ってください」

「言うだけでよろしければ」

「やっぱり認識もしてください」

カカシは部屋の隅を指差した。

「慈しむという単語をそこの辞書で調べてみると、イルカ先生の知らなかった言葉の意味を知る事ができますよ。プラスαで他の単語についても学んでください」

「知的じゃないのをウリにしているので、遠慮しときます」

「たんなるおバカさんじゃないですか」

「馬鹿なフリして天下を取ろうかと画策してます」

「そんな事を画策してる時点で、やっぱりちょっとおバカさんですね」

「俺が天下を取ったら、あんたの頭でカタツムリを繁殖させてやる!」

「地味だな、おい」

「風流ですよ?」

「軟体動物を頭で飼って、どこに趣を感じろというのか」

「雌雄同体なんで、繁殖のしすぎに気をつけてくださいね」

「優しさの使いどころを間違えてますよ」

「それもまた、俺のウリです」

「どこまでプラス思考なんだ、あんた……」

数日後、イルカがカタツムリの飼育の本を買ってきたので、カカシは静かにゴミ箱に捨てておいた。

これは、どこまでが本気なのか分からない人間は質が悪いというお話。


2007.06.19

 

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