心の壁

「カカシ、仕事終わったら飲みに行くか」

アスマは隣にいた男に声をかけた。

「飲みに行くそうですよ、イルカ先生」

カカシは正面で煙草を吸っている男に言った。

「私に振らないでいただきたいんですが」

イルカはアスマを見ながら真顔で抗議する。

「俺に振られると、お前以上に困るんだが」

アスマは同じように真顔で返した。

「そもそもお前とカカシが知り合いだったとは驚きだな」

「お互い、顔と名前を知っている程度ですので、現在の状況に困っているのですが」

「イルカ先生なんて呼ぶから、そこそこ仲がいいのかと思ったぜ。いろんな意味で驚きだな」

アスマはカカシに視線を移した。

「なんとなくフレンドリーにしてみたくなった」

「一方通行にも程があるぞ、お前」

「一方通行と見せかけて、実は袋小路です」

イルカがそう付け加える。

「そこの壁をぶち抜くと、イルカ先生が出迎えてくれるというわけですね?」

「人の家の壁を勝手にぶち抜かないでください」

「つまり回り道をして正面玄関から入れ……そういう事ですか?」

「不法侵入するなら全力で排除させていただきます」

「イルカ先生が冷たいぞ。何とかしてくれ、アスマ」

アスマは散々悩んだが、気のきいた理由が思い浮かばなかった。

「……こいつ、友達いないんだよ。だから仲良くしてやってくれ」

少しの間があり、イルカがどこまでも真剣で頷く。

「アスマ先生も友達じゃなかったんですね」

「そんな返しをするところじゃないだろう」

「俺は楽しげな雰囲気が一転、悲しい話をしてそれなりにまとめようとする流れは嫌いなんだが」

「お前の好き嫌いなんぞ俺の知った事か! そもそも楽しげな雰囲気なんてあったか!?」

「俺の心の中にあった!」

「本当に悲しい話ですね。思わず涙が出そうになりました」

そこへ紅がやってくる。会話は中断され、みなの視線が紅に集まった。

「胸を拝みたいなら相応の拝観料を出しなさい」

「よかったな、カカシ、イルカ。手のつけられない愉快な仲間たちが増えたぞ」

「アスマ危ない、蚊よ!」

咄嗟に避けたアスマの頬に血がにじむ。視線を少しずらせば、すぐそこに紅のふくらはぎがあった。

忌々しげな舌打ちが聞こえたのは、気のせいだろうか。

「……助けてあげたんだから感謝しなさい」

「ここまで愉快だと、怒る気も失せるんだな」

「アスマ先生、貴重な体験されましたね」

「微塵も羨しくないが、貴重な体験できてよかったな」

二人はどうでもよさげに、そう言った。

「俺は帰るぞ」

アスマが立ち上がる。

「今から三人で飲みに行くけど、紅もどうよ」

カカシが爽やかな表情で誘っている。

「さっきイルカに拒否されただろうが」

嘆息交じりで言うアスマの目の前には、カカシと共に紅を誘っているイルカの姿があった。

「お前、行かないんじゃなかったのか!?」

「人が困ってるのを見るのは好きです」

その視線はまっすぐにアスマを捉えていた。

「奇遇ですね。俺もなんです」

カカシもそう言いながらアスマを見つめていた。

「なんだか把握できない雰囲気だけど、私も特定の人物に限っては嫌いじゃないわ」

紅もやっぱりアスマを見ていた。

この日、愉快な仲間たち結成の祝賀会が三人+αで行われ、結果、アスマがしばらく無口になったそうだが、それはまた別のお話


2007.05.29

 

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