腐敗
狭い家のちょっと目が届かない場所からイルカの足音がする。 「か……カカシ先生」 姿を現したイルカは目を見開き、肩で息をしていた。 「どうしたんです?」 「タマゴが……タマゴが腐ってます!」 「だからどうした」 「あんたは何にもわかっちゃいない!」 カカシの顔面でタマゴが割れた。デロりと中身が垂れる。 「うっかりそんなタマゴをフライパンの上におとしちゃった時の俺の気持ちが分かりますか? なんかキモかったんですよ!」 「世間でキモいと認定受けた物が、今、俺の頬を伝っているんですがねぇ。っつーか臭い」 「本当に臭いんで、さっさと洗ってきてください」 「イルカ先生、好きだー!」 抱きついて顔面をイルカの胸元にこすりつけた。 「洗濯物増やされた! っつーかクサッ!」 イルカはカカシを引っぺがしながら顔を歪めている。 「なんであなたは、こういう意味のない行動が多いんですか。わざわざ人の洗濯の手間まで増やして」 「俺の顔面にタマゴぶつけた人間のセリフとは思えません」 「何をおっしゃるやら。俺の行動には意味があります。忍は裏の裏を読んでください」 「んな事言われてもねぇ」 「ちなみに俺は裏の裏の裏まで読んで、予想を外す男です」 「いや、聞いてないから」 「じゃあ、そういう事で」 イルカは右手を上げて台所に消えていった。 ──俺はなんで腐ったタマゴをぶつけられたんだろうか。 カカシは近くにあったイルカ宅のタオルを五枚ほど使い、小さな復讐という名を持った行動に出ながら、「なんとなく」という結論に至るまで、そう時間はかからなかった。 2007.04.18 |