味噌汁

出された味噌汁が、味噌汁の味をしていなかったけれど美味かったのでイルカに聞いてみる。

「おいしいですね、これ。よければ調味料何入れたか教えてください」

「よろしくないのでお教えできません」

「あんた何入れたー!?」

「別に何も入れてませんよ。素材の旨味のみ……といったところでしょうか」

「明らかに人工的な旨味成分の味も混ざってるんですが」

「気のせいです」

「真顔でそんな返しくるとは思いませんでした。ってか素材だけでこんな色出たらキモいよ」

イルカは考える素振りを見せ、訊いてきた。

「そんな物を出され、あまつさえ口にしてしまった場合、あなたならどういった行動に出ますか?」

「明日の朝、生きている事の素晴らしさと不思議さを実感できるような体験をさせてあげます」

「拷問系!?」

「何で怯えてるの!?」

「み……味噌は入ってると思います!」

「発言おかしいだろ! 『思います』って、どう考えてもおかしいだろ!」

それぞれ違った意味で怯えているため、妙に声がデカい。

──と、壁がダンダンと叩かれた。隣人からの苦情である。

イルカはハッと我に返り、冷静に言った。

「口に入れて美味いと感じたなら、人体に影響はないから安心してください」

「良い言い訳思い付いたって顔で、根拠のない近所のオバサンみたいな説明やめてください。忍にあるまじき楽観視も如何なものかと」

「あんた……俺の家に来てまで生命の危機感じてたんですか?」

「ついさっきまでは感じてなかったんですがねぇ」

ギリギリと奥歯を鳴らしながら微笑む。

「良い笑顔ですね」

「話を逸らされて堪るか!」

「こっちの漬物も正体不明なんですよ」

「話は広げないで!」

「カカシ先生は我儘ばかりですね」

「誰だ、この人を野放しにしてるの! ……俺だ!」

「そんなつまらないノリツッコミ、どこで覚えてきたんですか?」

「うっさいわぁ!」

「お前らがうっさいわぁ!!」

壁越しに隣から苦情がきた。

二人は静かに夕飯を再開した。

「これ、ほんと何なんですか?」

ボソリと訊いてみる。

「明日、直接紅先生に訊いてください」

同じくボソリとイルカが答えた。

「紅が作ったのかよ。っつーか何で紅がイルカ先生に飯作ってんですか」

「毒味です」

「笑えません」

「カカシ先生が危険物認定したとお伝えしておきますね」

「何の嫌がらせですか?」

「何のもくそも、たんなる嫌がらせです」

「よっしゃ、かかってこい!」

「望むところだ!」

誰が最後のセリフを言ったのか。それはカカシ、イルカ、隣人のみぞ知る。


2007.03.13

 

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