掛軸
夜遅く、イルカ宅に行くと玄関で幽霊にお出迎えされた。長い髪を振り乱し、あられもない格好で凄き形相をしている女性としばし見つめ合う。やがて何事もなかったかのように靴を脱いで居間に向かった。 「イルカ先生、掛軸の位置が変ですよ。暖簾代わりにしても長すぎですし」 「あんな長いのが暖簾だったら邪魔でしょうがないでしょうに」 「たまにうどん屋なんかで見掛けますけどね。意図が読めないほど長い暖簾」 「発注ミスじゃないですか? あっ、カカシ先生お茶どうぞ」 「さすがに、それはないでしょう。あぁ、どうもすみません」 春が近付いたとはいえ、風はまだ冷たい。そしてこの部屋は寒い。風が時折頬を撫でてくれたりするのも寒さを感じる原因だろう。 「なんで部屋の中で風を感じるんでしょうか」 良い具合に髪をなびかせながら問い掛ける。熱いお茶が美味い。 「風の精霊が窓と窓枠の隙間から迷い込んできちゃってるからです」 「素敵に家賃安いですもんね」 「でも今現在セキュリティ面は万全です」 「俺がいるからですか?」 「そこの押入にアスマ先生が……」 「お前は何してんだ!?」 ガラリ。 据わった目をした紅がいた。 ピシャリ。 襖を閉めた。 「アスマなんていませんでしたよ?」 「あれ? どっから逃げたんでしょうね」 「天井でもぶち抜いたんじゃないですか?」 「本当にそうだとしたら、修理費用をいくらか割増していただかなくては」 「ところで何故アスマが押入にいたんです?」 「カカシ先生が来る前にアスマ先生と紅先生が来てて、一緒に酒飲んでたんですが、紅先生酔っちゃって、アスマ先生を押入に連れ込んだんです。邪魔するのも悪いと思って放置してたんですが」 「土産だけ置いて逃げましたね」 押入からブツブツと何か聞こえてくる。気配がないのが気持ち悪い。 「ある意味、セキュリティは万全ですね。これじゃあ掛軸は必要ないかな」 「あの掛軸何だったんですか?」 「泥棒よけ」 「盗られる物ねぇよ」 部屋の中心で風に吹かれながら、カカシは本気でそう言ったそうな。 2007.03.02 |