たい焼き
「カカシ先生、カカシ先生!」 カカシは顔をあげて正面に座っているイルカを見た。 口からたい焼きの尻尾だけが出ていた。イルカはそこを指差している。カカシは茶をすすりながらジーっと眺めていた。 やがてイルカの口が動き出したかと思うと、尻尾は静かに消えていった。 「もはや何の尻尾か分からない!」 「いや、あんたの行動が分かんないんですが」 「たい焼きをたい焼きたらしめているのは、やはり頭の部分ではないかと思いまして。尻尾だけの姿をあなたに見てもらう事で判断していただこうかと」 「自分の行動を口で説明しなきゃ伝えられない時点で、人としてどうかという判断は下せましたが。っといいますか、口で説明しても伝え切れていないという事実をお伝えせねばいけません」 「俺は言いたい事の全てを言葉にしました」 「毎回それで伝わってないんだから、ちっとは学習してください」 イルカは怪訝な顔をした。 「毎回伝わってないのに毎回説明を求めていないあなたは、俺の言う事を何一つ理解せぬまま話を流しているんですか?」 「俺は想像力を豊かにするという努力をして、あなたの珍問答にも対応できるよう学習しています」 「つまり本当の意味で理解しているかは分からないって事ですね?」 「努力・学習というワードを散りばめた事で褒められると思ってましたが」 「それは甘い考えです」 イルカは人差し指を左右に振った。 「自分で学習及び努力した気になっても、他者が認めねば所詮はそれまで」 「つまり?」 カカシが問うと、イルカはあさっての方を向いて優しく微笑んだ。 「もっと肩の力を抜いて自由に生きてもいいんじゃないかな」 「考え方が自由すぎるだろ」 「まるで自由が悪みたいな言い方ですね」 「ルールなき自由は無法地帯でタチ悪いです」 「……まぁ、それもそうですね」 色々イルカなりに考えを巡らせたのだろう。一瞬の間を空けて同意した。 静かな昼下がりが再び戻ってくる。 「ところでカカシ先生」 呼ばれてカカシは再びイルカを見た。 口からたい焼きの頭だけ出ていた。 そしてやっぱり口の中へと消えていく。 「さっきの答えを出していただく為に逆バージョンをお見せしてみたんですが」 「あんたこそ、俺の言ってる事を何一つ理解してませんね?」 微笑んだカカシはこの瞬間、肩の力を抜くと言う名の努力の放棄も大切である事を学んだのだった。 2007.02.19 |