押入れ
「……狭い」 イルカが自宅の居間で呟く。 「部屋が狭いのは、ちらかってるからですよ」 物に埋もれて座っているカカシは、まるで整頓されていない部屋の一部のようだった。 「物が多すぎるんですよね」 「無駄に物持ちたがりますもんね、イルカ先生って」 「無駄かどうかは俺が決める事です。たとえ使い道のない壊れたメスシリンダーが押入れにギッシリ詰まっていても、俺にとっては宝物なんです!」 「さっさと元の場所に返してこい」 「一晩かけて運んだんですよ!?」 「壊れたメスシリンダー以上に、あんたのその行動力が怖いわ!」 「見ます?」 イルカは押入れに手をかけた。 「微塵の遠慮もなく、見たくありません」 カカシは押入れを開けようとしているイルカの手を叩き落とした。 「サンクチュアリですよ?」 「不気味な結界です」 「というわけで、押入れが使えないので物が散乱しているわけです」 「接続詞の使い方を学んでください」 「そもそも部屋が狭いんだよなぁ。どこか広いところに越そうにも、金ないし」 「俺の意見を無視しないで」 そんなカカシの言葉も無視して、イルカは部屋を見回しながら唸っていた。 「なんなら俺の家に越してきたらどうです? 部屋余ってますし」 「このブルジョワが! あんたの家に越したが最後、おさんどんと化す事必至! そんなのお断りだ!」 「言ってもいいのか悪いのか、今と大して変わらないと思うんですが」 「……本当だ!」 イルカは衝撃を受けたようだった。 「まぁ、それはさておき、カカシ先生の家に住むのは嫌です」 「手っ取り早いと思うんですが」 「だって……カカシ先生の家、広いじゃないですか。俺、そんなところでカカシ先生の帰りを待つのは嫌です」 「って言うとカカシ先生喜びそう……なんて続けませんよね?」 イルカは眉間に皺を寄せ、傷付いた表情を浮かべた。 「えっと……ごめんなさい」 カカシが素直に謝る。 「カカシ先生ごときに俺の戦略が読まれた!」 「謝った俺が馬鹿だったよ!」 「馬鹿ではないと思いますが、少々早すぎる謝罪ではありましたね」 「やかましいわ!」 結局、足の踏み場もなくなったイルカの家。荷物がカカシ宅に運び込まれたのは二日後の事だったそうな。 「俺の家の押入れには、なんびとも寄せ付けない結界が張ってある」 深刻な表情をしたカカシの告白を聞いたアスマは、「……へぇ」と曖昧な口調で会話を終わらせたのだった。 2007.01.06 |