SとMの間

洗面所に行ったはずのイルカがやけに早く戻ってきた。

「カカシ先生、大変です!」

「どうしました、イルカ先生」

「歯茎から血が出ました!」

「だからどうした」

「カカシ先生、またまた大変です!」

「今度はなんですか?」

「大声出して無理矢理テンション上げたら鼻血も出ました!」

「アホか、あんた!」

とりあえずティッシュの箱を投げた。イルカは受け取ってそれを見つめる。

「これを使うと負けのような気がします」

「自分でティッシュを鼻にフィットさせるか、俺が作ったコブシ大のティッシュに鼻をフィットさせるか好きな方を選んでください」

「あえて後者で」

「望むなバカタレ」

イルカは何か言いたそうにしながらも、素直にティッシュを鼻に詰めた。そしてカカシの前に腰を下ろす。

「さて」

「そのような愉快な顔で俺と何を語ろうというんですか?」

「歯茎からの出血についてです」

「そんな事もありましたね。なんだか遠い過去のような気がします」

「気のせいです」

「鼻血騒動のおかげで疲れたという皮肉も通じんのか」

「通じませんでした」

「知ってます。あぁもう、歯茎から出血してるなら塩でも塗りこんどきなさいな」

「そして口を縫うんですね?」

「誰がミイラの作り方教室を始めたか」

「始まりはいつも突然です」

カカシは静かに頭を抱えた。

「ところで歯茎に塩って、なんだか怪しい民間療法みたいなんですが」

「真偽は知りませんが、口内炎等々、口の中のトラブルの時は塩塗ってましたよ」

「その痛みを快感に変えていたんですね」

「いきなり人をマゾ扱いせんでください」

「しかし、よく考えてみれば、塩が患部に到達するまでの間に高揚感を得たとすると、それはマゾであると同時にサドの気質も持ち合わせている事になりますよね」

「真面目に間抜けな絵面で不可思議な事を言い出された俺は、いったいどうすればいいんでしょうか」

「同じように真面目に間抜けな絵面で不可思議な事を言い返せばいいと思います」

「誰が収拾つけるんだよ」

「正気に返った方」

「中略して事態を収拾しようと思います」

カカシはコブシを握った。

「そういえば口ゆすぐの忘れてた」

イルカは逃げた。

痛いのは嫌らしい。

今度イルカが鼻血を出したら、コブシ大のティッシュを実行してみよう。

カカシの心にちょっとしたサド心が芽生えたそうな。


2006.11.5

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