小さな疑問
「カカシ先生、俺の疑問きいてくれます?」 「どうぞ」 カカシは煙草を咥えながら不明瞭な声で促した。 「正月って凄いと思いません?」 「……」 「なんか言ってくださいよ」 「あぁ、聞くだけでいいのかと思いまして」 「言葉どおりに取りすぎるのも、考えものですよ」 「はぁ、申し訳ない」 「心がまったくこもっていない感がするのは、どうしてでしょうか」 「心がこもっている、いないなんて、結局本人にしか分からない事ですよ。申し訳なさそうな顔して頭下げまくってても、相手がいなくなったら舌打ちなんてよくある話で、逆にボーッとして見えても心が凄くこもっている場合もあります。今回の俺にはまったく当てはまらないんですがね」 「俺の信じる心を返してください」 「返してあげるんで、ちゃんと受領証ください」 イルカは自分の手にある煙草を見た。火をつけたばかりである。 「印鑑ないんで、焼印でいいですか?」 「いいわけあるか」 「受け取ってもらっても困るんですがね。それはさておき、正月ってメジャーですよね」 「その表現ちょっと変じゃないかとは思うんですが、まぁそうですね。正月というか、新年という概念は多かれ少なかれ持ってると思います。さすがに遠方の異民族までは知りませんが」 「いつから正月なんてもんが認識されるようになったんでしょう」 「暦と神の存在が確立されて後である事だけは確かです」 「アバウトにも程がある」 「自分で答えを探す事の大切さを学ばせてさしあげようかと」 「他人の口から聞くのも一つの手段だと思うんですが」 「言葉というのは怖いものですよ。偶然に同じ間違った回答を数人から聞いてしまうと、それがあんたにとっての正月になってしまう。そしてうっかり文献調べて同じ間違いの文章があったら、さぁ大変。さらに何かの間違いであんたが発言力なんて持ってしまった日には、もはや歴史すらも変えてしまう事態になるかもしれない」 イルカは黙って話を聞いていた。そして聞き終わると、グシャリと煙草を灰皿に押し付けた。 「俺……歴史を変えたいです!」 「話の主旨を理解してませんね?」 「言った者勝ち」 「言ったからには責任をとって、時間と労力と金を惜しみなく費やしてください」 「案外面倒なんですね」 イルカはつまらなさそうな顔をして、二本目の煙草に火をつけた。 ──俺もイルカ先生の扱いに慣れてきたなぁ。 煙を吐きながらカカシはそう思ったそうな。 2006.10.11 |