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「イルカ、お前が実は強いんじゃねぇかって噂が広がってるぞ」 喫煙所に入ってくるなり、アスマが言った。 「それは昔からの知り合いでもないのに、上忍と中忍が普通に会話しているからでしょうね。教え子という接点があり、そこから気の合う顔見知りに進展したと考えるのが普通なんでしょうが、なにぶんカカシ先生は外面が良い……というかミステリアスというか、それじゃあたんなる実力あるだけの社会不適合者だろうが、というような方ですからねぇ」 「お前、何気にカカシの事、嫌ってないか?」 「なにをおっしゃるやら」 イルカは驚いた表情をして見せた。 「それはさておき」 「そこで流しちまうのか……」 アスマは微妙な顔をしていたが、それ以上なにも言わなかった。 「カカシ先生は有名な方ですから、うっかり俺の命も狙われかねないですね。無害な弱者だとアピールする必要があります」 イルカは立ち上がり、喫煙所を出て行った。帰ってきたのは、アスマが三本目の煙草に火をつけようとした時である。 「成功しました」 「なんの話だ?」 「本来の俺をアピールする事にです」 「手段を訊いてもいいんだろうか」 「簡単ですよ。同僚数人つかまえて、噂の真実を確かめる質問をしたくなるような雰囲気に持っていって真顔で答えればいいんです」 「何て言うんだ?」 「強かったら豪遊するために上忍になってるよ」 真顔かつ嘲るような、それでいて自虐的な目をしながらイルカは言った。 「色んな意味で技術が必要だと思うんだが」 「決め手は預金のゼロの数を生々しく語る事です」 「勝負に勝って人生に負けてるぞ」 イルカはアスマのそんなセリフを聞き流した。 「一ヶ月もすれば噂は消えるでしょう」 「その能力を別の方向に使えば金儲けできるだろうな」 「ちょっと失礼します」 イルカは何かを思い立ったのだろう。再び出て行って、数分後帰って来た。 「今度は何をしてきたんだ?」 「知人に金をつかませて、俺が金融関係の有能なマネジャーだと噂するよう頼んできました」 「えらく直接的な手段に出たな」 「投資になれば万々歳です」 ──経済的な投資にはならんだろ。だって嘘だから。 アスマはそんな事を考えながら、イルカに金を渡すような人間が出ない事を祈った。 一ヵ月後、やっぱりイルカの預金のゼロは増えなかった。 「何故だと思います?」 喫煙所でイルカがアスマに尋ねる。 「有能なマネジャーだったら、すでに頭角あらわしてるだろうと思ったからだろうな」 「他の奴に預金額を知らせてたのが敗因ですか……」 これは、投資のつもりが消費だったという話。 2006.09.04 |