目標

イルカは自室で酒を飲んでいた。目の前の壁に貼られている『禁酒』と書かれた紙が扇風機の風に揺れている。

「……字にすると虚しいもんだな」

「紙に書いて壁に貼ってるあんたの行動が無意味で虚しいですね」

その壁に背を向けて座っている男──つまりイルカと向かい合って座っているカカシが真顔で言った。

「まったく意味がないわけではないんですよ?」

「ほほぅ、ではどんな意味があると?」

「目標を立てて自分を縛りつける快感」

「とんだアホゥですな」

「我慢している時間もさることながら、破ってしまった時の絶望感がたまらない」

「真顔で答えられると気持ちが悪いので、ここらで笑いに変えていただけませんか?」

「……なぁんちゃって」

「無理なら無理だと断わってくれても良かったんですが」

「カカシ先生はいつもそうです!」

イルカは突然声を荒げた。

「本心を語ると拒絶するのは何故なんですか!? 俺の全てを無条件で受け入れるくらいの覚悟で向き合いましょうよ!」

「そんな趣味嗜好語られて受け入れられるか! デメリット満載で逃亡もしたくなるわ!」

「はたけカカシともあろう人が敵前逃亡ですか」

「逃げるが勝ちとも言いますからね」

「詭弁を弄したところで、結果は同じ。つまり、俺の勝利!」

拳を握って誇らしげにしていたイルカだが、次の瞬間、小首を傾げる。

「ところで、俺は何に勝ったんでしょうか」

「勝負というのは、時に無意味なものです」

「あぁ、つまり俺の目標みたいなもんですね」

もう何も言うまい。

カカシは背後の紙を微笑みながらはがすと、無言でゴミ箱に投げ入れたのだった。


2006.08.08

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