スイカ
「イルカ先生、いらっしゃい」 カカシは玄関の扉をあけてイルカを迎えた。 まだ陽は高い。夏らしい夏といった気候の中「一緒にそうめんでも食べましょうか」と言い出したのはどっちだっただろう。 「ところで、何持ってんです?」 かたく握り締められたイルカの手を指差して尋ねた。 「途中でスイカ食ってる同僚に会いまして、あまりにも美味しそうだったから『くれ』と言ったら種をくれました」 「仕事場での人間関係、円滑にいってますか?」 「種、ちゃんと水で洗ってくれましたよ」 「あ……うん、よかったね」 カカシはそれ以上この話題にふれなかった。 「というわけで、カカシ先生の家の庭にでも埋めてみようかと」 「話がモヤに包まれていて、俺には何も見えてこないのですが」 「スイカが食べたいので、スイカの種をまいてみようかと」 「その種からスイカを作ることはできなくもないですが、ものすごく手がかかりますよ」 「大丈夫ですよね、カカシ先生」 イルカは笑顔で種を渡す。 「人任せかい」 「当たり前です!」 「何でそんなに力強い返答ができるんだよ! っつーかどこまで自由人なんだ!?」 強い口調で言われたイルカは、なぜか凛とした表情で遠くを見つめた。 「……どこまでも」 「そんな表情で俺が納得すると思うなよ?」 「納得はしないでしょうが、流されてくれる可能性がある以上、俺は行動に移さねばなりません」 「計画的だな、おい」 「無計画は無謀の証。勇気と混同するのは愚かな証です」 「言わんとする事は分かるんですが、そんな稚拙な計画で流されたりしませんよ?」 「なんで!?」 「計画ベラベラ喋っといて『なんで』もクソもないでしょうが」 イルカはポンと手を打った。 「なるほど。では種をまきましょう」 「話を聞け」 「聞くだけでよろしければ」 「無意味すぎるだろうが」 「それを無意味と感じるカカシ先生のために、いろいろ端折って種まいちゃいますね」 「あぁぁ!」 カカシの叫びも虚しく、玄関に種はまかれた。 「楽しみですねぇ」 悪い笑顔でイルカが言う。 ──こんなところで芽が出られても。 カカシはもはや世話する自信すら失っていた。 「……気長に何年か待ってれば、いつかスイカを収穫できるかもしれませんね」 ポツリと言ったカカシのセリフに、イルカの目が見開かれた。 「なに悠長な事を言ってるんですか! 俺達は忍ですよ? 明日をも知れぬ任を担っている身という事をお忘れですか!」 「そんな家主の俺にスイカの世話させようとした人に言われたかねぇな」 「スイカを希望とし、せめて一年は生き延びようという気になりました」 「100歳過ぎのオッサンなら持てない希望ですよね」 「収穫を待たずに天寿を全うしちゃったら、心残りがありすぎて成仏できませんもんね」 「恐ろしいほどどうでもいい未練だな、おい」 「そこは人それぞれでしょうが」 「言ってる事は間違ってないんですが、重要視するところがズレてんですよ」 「重要視しているのは、俺がスイカを食べられるかどうかなんですが」 「たんに、それだけかよ」 結局、イルカとカカシはそうめんを食べた後、買いに走ったスイカをデザートにしたそうな。 三年後、カカシ宅の玄関に見事なスイカができたそうだが、それはまた別のお話。 2006.07.23 |