癒し

出不精のイルカにしては珍しく、休日外に出る気になった。

「映画でも見ましょうか」

隣を歩くカカシの提案に、イルカは「微妙です」と言って、さてどうしようかと悩み始めた。

「……あの」

二人の後ろから申し訳なさそうに声をかけてくる男が一人。どこか挙動不審だが、見かけは普通だった。

「何か用ですか?」

イルカの問いかけに、男は「はぁ……」と言って続けた。

「あなたたちを癒すために踊らせてください」

「俺もあなたを癒したいので、一緒に踊ってもいいでしょうか」

「んじゃあ俺、映画館行ってきますね」

カカシはそう言ってその場を去った。

映画は面白かった。

帰途でイルカを見つけた。

うねうねと動いていた。

「その動きは先ほどよりも癒されますよ。イルカさん、凄いですね」

「腕の微妙な角度で不安を感じさせる事もできれば癒す事もできる。なるほど、奥が深いです」

なにやら感心しているイルカに、カカシは手を振った。視界の端にカカシの姿を捉えたイルカはピタリと動きを止める。

「今度はあの人を癒そうと思います」

「あなたならできますよ。お教えする事はもはや何もありません」

二人は握手をして別れた。

「カカシ先生、映画は面白かったですか?」

「あんたの奇行の方が面白いです」

「おっしゃっている意味がよくわかりませんが、家に帰ったら今日学んだ全てを披露したいと思います」

「俺を本当に癒すつもりがあるなら止めてください」

「それであなたが癒されるなら止めておきます」

結局、友人知人を含め、イルカが癒しを提供する場を作ってくれる人物はいなかった。

「みんな元気なんだなぁ」

イルカの呟きに、この人がいろんな意味で幸せな人でよかったと思うカカシがいたそうな。


2006.06.15

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