「カカシ先生、竹林にでもするおつもりですか？」

「伸びてきましたかねぇ」

カカシは自分の髪を触りながら言った。

「今の会話でよく髪だって分かりましたね」

「短いようで付き合い長いですから」

「それはさておき、切りましょう」

「話の流れは分かるけど、何であんたが髪切り用のハサミを手にするんですか」

ガッションガッションといわせながら迫ってくるイルカに対し、カカシは座り込んだ状態のまま後退した。

「俺、一度人の髪を切ってみたかったんです」

「知るか、そんな願望。イルカ先生の髪も長いんだから、自分の切りなさいな」

「俺の髪はあんたの髪みたいに重力に逆らってないからいいんです！」

「会話がつながってねぇよ！　一瞬勢いにのまれてワケも分からず納得しかけたよ！」

「そこで納得していれば辛い思いもしなくて済んだんでしょうね……」

ニヤリと笑うイルカ。

「あんた何する気ですか？」

「いや、髪切るだけですよ？」

「『いや』ってなんだよ、『いや』って……」

「カカシ先生！」

いきなり大声で名を呼ばれ、カカシは思わず「はい」と真面目な顔で答えた。

「そんな髪型じゃモテませんよ？」

「モテなくてもいいんですが。っつーかこれより酷い髪型してる時でも女には不自由しませんでしたよ？」

「心の中にある呪うリストに、とりあえず追加しておきますね」

「とりあえずで人を呪うな。そしてそんな物騒なリストは燃やしてしまえ」

「情熱的に髪を切れってことですか！？」

「言ってねぇよ」

「若さと金目当てで近付いた女もカウントに入れてモテた気でいるなよ！？」

「むしかえした上に恐ろしく失礼な発言だと思いつつも、完全否定できない！」

「あなた憎めない人ですねぇ」

イルカはしみじみと言った。

「それにしても、カカシ先生のその髪型は趣味ですか？」

「寝癖なんですがね。でも、微妙な曲線をえがきながら上を目指すあたりは、結構気に入ってたりしますよ。このへんのカーブを作るための寝方は研究しました」

カカシが指差す場所を眺めながらイルカが呟く。

「おぞましいほどのこだわりですね」

「おそろしいと言われると褒められてる気がしないでもないですが、おぞましいと言われるとダメージでかいですね……」

カカシは次の日、髪を切りに行ったという。