ひげ

「俺、髭生やそうと思うんですが、どうでしょう」

イルカは鏡の前で顎をさすりながら、寝そべっているカカシの方に身体を向けた。

「似合わないと思うけどなぁ」

「野性的な感じでいこうかと」

「アスマとかぶるよ」

「そうなればアスマ先生に髭を剃ってもらうまでです」

カカシは目を瞑って想像した。

「アスマの髭は剃ってみましょう。面白そうです。しかしイルカ先生が髭を生やすのは賛成できません」

「もしかして、髭が強調されて他のパーツが目立たなくなっちゃいますか?」

「面倒だから、そういうことにしておきます」

「では、他のパーツをまず強調してみましょう」

イルカは手にしたアイライナーで眉を太くし始めた。

「……ゴルゴ眉にしてみました」

何かを成し遂げた男の顔で振り向く。

「変です」

その返しが気に入らなかったのか、イルカは再び格闘を始めた。そして振り向く。

「陰影をつけて彫りを深くし、まるでデューク東郷のような顔に」

「無茶するな」

「ここまでインパクトのある顔になったら、後は髭を描くだけ!」

アイライナーが左右に揺れ、ペン先が絶妙なカーブを描いた。

「ジェントルマンのできあがりです!」

「野性的って言葉はどこにいった!?」

「過去に囚われすぎるあまり現実を軽視するような行為は愚かですよ」

「アホみたいな顔した人間に諭された!」

イルカは鏡で自分の顔を確認した。

「っつーか、何で俺はこんなアホみたいな顔してんですか!?」

「知るか!!」

結局イルカが髭を生やすことはなかったそうな。

後日、アスマが髭を剃られそうになり必死に抵抗することになるのだが、それはまた別のお話。


2006.05.19

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