教育者

教室に人影が二つ。

なにやらいかがわしい雰囲気が漂っている。

扉の開く音に驚いた様子で、教え子達はイルカを見つめていた。

イルカはツカツカと二人に歩み寄り、両手でそれぞれの肩を掴んだ。

「他所行ってやれ」

「先生、いっ……痛い!」

「なんだか分かんないけど、ごめんなさい!」

「謝って済むと思うなよ。っつーか、見せ付けられて不快指数上昇中だ!」

途端、イルカの頭が変な勢いで下を向いた。

後ろからきたカカシに叩かれたらしい。

「はいはい、就業時間過ぎたイルカ先生はちょっと本能に忠実だから今見た事は忘れるんだよ」

二人はコクリと頷くと、走り去った。

「なにすんですか!」

「お望みの事をしてさしあげますが」

「会話してください」

「努力してるつもりなんですがね」

「結果が出せなきゃ意味ないです」

イルカは頭をさすりながらハッと表情を改めた。

「いきなり殴られた!」

「いや……あのまま放置しとくと、あんたワケわかんない事口走りそうだったから」

「俺は教え子達を導こうとしただけです」

「おもっくそ欲求不満を露にしてましたよ」

「なにを言ってるんですか。恋愛にうつつをぬかして、命が危機に晒されたら親御さんに合わせる顔がないじゃないですか」

「他所でならやっても良いって言ってましたよ、あんた」

「過去をむし返すのはやめてください」

「もともとそこから話が始まってるんで、すっとばすのは無理ってもんでしょ」

「青春真っ只中の二人のやりとり見せつけられて平静なぞ保てません。っつーか余裕ありすぎじゃないですか? 言い換えればゆとり? 噂のゆとり教育の賜物か!?」

「ゆとり教育って、そんなんじゃねぇですよ。っつーか、言葉だけで判断するから間違いをおかしちゃうんですよ?」

「殴られた!」

「人の話を聞かんか!」

「努力はしてます」

「結果出せよ」

「結果ばかりを求めると、個人の良さが見えなくなってしまう危険も出てくるんですよ? やはり過程も大切にしないと」

「自分の発言を忘れてるのか覚える気がないのかは不明ですが、会話にならん」

「あぁ、その接し方も大変問題があります! 切り捨てるのではなく、分かり合う努力を惜しんではいけません!」

「そういうあんたはどうなんですか?」

「未だ発展途上なので、将来に期待……といったところでしょうか」

「あぁ……うん、期待してますよ」

「期待は裏切られるもんです」

「努力する気が微塵も感じられねぇ!」

「期待しててください!」

「なんで力強く言えるの!?」

「力強く言わないと嘘がばれるからです」

「再教育してあげます」

真顔で追うカカシに真顔で逃げるイルカ。

近付いてきたそんな二人の様子に、他所でお楽しみだった教え子達は本気で怯えたそうな。


2006.04.30

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