上下
「今日、なんか機嫌がいいんです」 イルカは帰り道で足取り軽くそう言った。 「いい事でもありました?」 カカシが問い掛けた時には、すでにイルカの姿は視界になかった。 見事に転んだイルカは両手を地面につき、なにやらブツブツと呟いている。 「楽しい気分が一転、なにをしても失敗するような予感に苛まれ、俺は……俺は……」 「地面睨みながらデカい独り言は怖いです」 「普通ここは『大丈夫ですか』って言うところだろ、っつーか、もうどうでもよくなってきた……」 「テンション上がったり下がったり大変ですね」 「ミトコンドリアが俺を操っているのかもしれません」 「意味分かんねぇよ」 「俺にも分かりません」 「帰りにプリン買いません?」 「その話の飛びっぷりも俺には理解できません」 「落ち込んでいかないように話をそらせる事によって忘れさせようとした俺の努力は認めてください」 「その優しい素振りで何人の女を騙したんですか!?」 「予測もできねぇ飛び火の仕方しましたね。っつーかそろそろ地面見つめるのやめません?」 「確かに生産的じゃないですね」 イルカは立ち上がると、手のドロを落とした。 「そうそう、前向きなイルカ先生が一番ですよ」 「カカシ先生……」 イルカはそっとカカシの腕に自分の腕を絡めた。 「イルカ先生……」 「はい、なんです?」 「俺の服でドロを拭わんでください」 「手を叩いたくらいじゃ落ちなかったんで」 「っつーか自分の服で拭えよ!」 「優しくした次の瞬間に突き放す。あんたの手管には恐れ入りましたよ!」 「その手管にクラリときてから恐れ入ったと言え!」 「無理難題をふっかけられた!」 「愛が感じられねぇ!」 そんな二人の後ろを歩いていたアスマが隣の紅にポツリと言う。 「俺、こんなテンション高い奴らと飲みたくねぇ」 「前向きに考えればいいじゃない。カカシも人間らしくなったなって」 「そのセリフだけ聞くと、物凄くいい話のラストみたいだよな」 「無理やりまとめに入った私の心労も感じ取って欲しいものだわ」 「……すまねぇ」 そんな会話の前で二人のやり取りはまだ続いている。 早く酒を飲んで酔っ払ってしまいたい。 思ったのは誰だったのか……それは当人のみぞ知る。 2006.04.23 |