窓ガラス

イルカは足元に散らばったガラスの破片を見下ろしていた。

「そろそろ帰りません?」

腕を組んで眉間に皺を寄せているイルカに、カカシが近付いて声をかける。

「あんたかー!」

ビクリとカカシは身体を震わせた。

「いきなり犯人扱いかよ」

「犯人は犯行現場に戻るといいます」

「俺なら面倒なので、戻りませんが。っていうか、それだとイルカ先生も犯人候補になりますよ?」

「俺が犯人でない事は俺が知っているので、俺は犯人じゃないです」

「それだと俺も犯人じゃないって言えますよ」

「俺は教師ですよ!?」

「俺も似たような立場ですが」

「教師である俺が、窓ガラスを割って、あまつさえ放置するなどという悪行に走るとでも!?」

「俺ならするのかよ」

「人に教える立場にいようと所詮は人間です。時には間違いを犯す事もなきにしもあらず。むしろ肩書きで人間の善悪を判断するなど愚の骨頂! これであなたの犯人説は再び浮上しました!」

「あんたのもね」

「……」

イルカは真顔で視線を逸らした。

「それはさておき……」

話題を変えようとしたが、思いつかなかったのか、イルカはそのまま静かになった。

その光景を遠くから見ていたアスマは「心底戻りたくねぇ」と思いながらも、ホウキを手にして近付いた。二人が同時にアスマを見る。

「まさか、アスマ先生だったなんて!」

「お前、極悪人だな」

「やかましい、ホウキ取りに行ってたんだよ」

「そんな嘘は結構です!」

「吐くならもっとマシな嘘を吐けよ」

「人の話を聞け! っつーか、ホウキ持ってんだろうが。お前らの目は節穴か?」

アスマはホウキで二人を遠くにやった。

「お前らがいると掃除の邪魔だ。さっさと帰れ」

イルカとカカシは突付かれた服を叩きながら、言った。

「アスマ先生、自分の足を踏んで転ぶなんて器用ですね。といいますか、お怪我はありませんか?」

「肘から豪快にいってたもんな。大丈夫か?」

「……お願いだから帰ってくれ」

もはや怒鳴る気力すらなく、アスマは二人仲良く帰っていく後姿を見ながら掃除を始めたのだった。


2006.03.06

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