イルカがご飯を食べた後で唸り出した。

「お腹が痛いです」

「食べすぎでしょう」

カカシはそう言うと、唸るイルカを残して台所に行った。腹が痛いイルカの代わりに洗い物を済ませて戻ると、まだ唸っていた。

「薬飲みますか?」

「苦いから嫌です」

子どもか、あんたは。そんな言葉を飲み込む。

「イルカ先生、お腹痛い時は、手をあてて腹式呼吸すると良いらしいですよ。痛いところに意識を集中しながらゆっくりと……」

「つまり耐えろという事ですね?」

「痛みが和らぐと言ってるんです」

「そんな嘘くさい民間療法に騙されてなるものか!」

「やる前からあっさり否定!?」

「精神論の勝利は、単純な人間にのみ得られるものです!」

「つまり?」

「単純ですよねぇ、カカシ先生」

「気を失っている間は痛みも感じないそうですよ」

カカシは拳を握り締める。

「力に訴えるなんて鬼ですか、あんた」

「これも優しさです」

「角度を変えればたんなる暴力です」

「それじゃあ、角度を変えないでください」

「残念ながら、一度意識してしまうと軌道の修正は難しいものです」

カカシは「しょうがないなぁ」と呟くと、台所に再び行って戻ってきた。

「これ食べてください」

「梅干じゃないですか」

「腹痛の時は梅干食べると治るって昔から言いますよ。含まれる成分に効くものがあるんでしょうね。俺は知りませんが、先人の知恵なんでしょうね」

イルカは訝しがりながらも梅干を食べる。30分もすると、元気に動き出した。

「効きましたよ」

嬉しそうに礼を言うイルカを見ながら、「あんたも単純ですね」とカカシが思っていたことは秘密である。


2006.01.19

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