何となく

「イルカ先生、掃除とか買い物とか、今やりたい事あります? 暇なんで手伝いますよ」

カカシの質問に、イルカはチラリと彼を見やった。

「排除」

「何の!?」

「とりあえず目障りなもの」

「おっ……俺は排除されませんよ!」

「明確なものを指した覚えはありませんが。それとも、何か心当たりでもあるんですか?」

「いえ、特には……」

「無意識って怖いですね」

「ちょっと何の話ですか!?」

「独り言です」

「でけぇ独り言ですね。っつーか、気に入らない事あるなら言いましょうよ。言葉にしないと伝わらない事って多いんですよ?」

イルカは腕を組んで目をきつく閉じた。眉間には深い皺が刻まれている。

「ちょっと階級差を忘れてもよろしいでしょうか」

「俺はそんなの気にしてませんけど」

イルカは「どうも」と言って、軽く咳払いした。途端、奇妙に歪む顔。怪訝な視線をカカシに遠慮なく向ける。

「あんた、何で俺の部屋にいるんですか?」

「何となく」

「素晴らしい答えです。曖昧すぎて再度質問する気が失せました。むしろ質問しても無駄だと知りました」

「俺って凄いですね」

「皮肉も通じないなんて、俺の予想を一足飛びです。っつーか、そこの他人!」

「せめて知人にしません?」

「自己紹介しただけの関係は知人未満だと思われます」

「それは、ほらっ、認識の違いってやつ?」

「まったくもって『ほらっ』の意味が分かりません。当然のように言わないでください。あと、人の部屋で寛ぐのやめてください。もっと言わせてもらえば、訪ねてこないでください。さらに続けさせていただきますが、和やかに喋りかけないでください」

「殺気だった感じの方がお好みですか?」

「俺の好みはどうでもいいです。何が悲しくて、プライベートまで気を遣う上忍の方と過ごさなければならないのかって話です。しかもよく知らない人物ときた日には、繊細な俺の胃に穴あきますよ」

「そこまで好き放題言っといて、気を遣うもクソもないと思いますが」

「階級差忘却タイム終了」

両手で会話を制し、イルカは深呼吸した。そしてニッコリと笑う。

「お客様に掃除や買い物を手伝っていただくなんてとんでもない。どうぞ寛いでいてください。お暇ならゆっくりしていってくださいね」

「社会に適合してんだか、そうじゃないんだか分からん人間ですねぇ」

「あれ? お忙しいんですか? 残念だなぁ」

「言ってねぇよ」

「お帰りは、あちらです」

「まぁ、しばらく居座るんですけどね」

「邪魔」

「気を遣っていただいてる気が、まったくしないんですが」

「感じ取れよ!」

「無茶言うな!」

「っつーか、本当に何でここにいるんですか!?」

「何となく」

カカシの発言にイルカは敗北を喫した。

──もう何を言っても無駄だ。適当にあしらっておこう。

そう心に決めたイルカが、何となくと言われながら半同居だか同棲だか分からないカカシとの生活を始めたのは、それから一ヵ月後の事だった。


2006.01.04

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