カカシは本を片手に、チラリとイルカの様子を窺っていた。

「カカシ先生」

「なんです?」

「欲にまみれた目で俺をみないでください」

「俺は愛しむように見ていたつもりなんですけどねぇ」

「受け取り側からの意見とでも申しましょうか」

「つまりそれは、俺すらも意識しなかった奥底に秘めている欲望を読み取ったと認識してもよろしいのでしょうか」

「よろしくないので、とりあえず近付いてくるのは止めてください」

イルカの制止をきかず、カカシはなおも近付く。

「そうですねぇ。カカシ先生、例えば誰かが頭に桶のっけて道を歩いていたとします。なぜだと思います?」

カカシは首をひねった。

心理テストなのだろうか。

それにしても桶に何の意味があるのだろう。

両腕を組み、唸ってみても答えは出ない。

顔を上げて訊いてみようとしたが、そこにイルカの姿はなかった。

「イルカ先生ー!」

「うおっ、風呂場まできやがった」

イルカは湯船でビクリと体を震わせた。

「俺を放置して、何一人で風呂入ってるんですか」

「なんとなく暇だったんで」

「時間の有効利用と思って、この仕打ちは甘んじて受けましょう」

「譲歩することを覚えてくださったんですね。嬉しい限りです。ところで答え出ました?」

「お手上げです」

「でしょうね。思いつきで喋りましたから」

「俺の純粋な心を弄んで楽しいですか?」

「相変わらず微妙……って、上から水かけないで!」

「やかましい!」

「水道代!」

「払ってやるわ!」

「得しました」

イルカはそう言って、風呂桶をかぶったのだった。


2005.11.29

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