参加

『飲み会にカカシを参加させろ』

それが紅の指令だった。

アスマは喫煙所にいたイルカに挨拶し、隣に座る。

「お前、今日の飲み会に参加するのか?」

「しません」

「忙しいのか……」

ガクリと肩を落とすアスマに、「面倒なので、家帰って寝ます」とイルカが言った。

「参加してくれ」

真剣な口調のアスマを、イルカは鼻で笑う。

「大方、カカシ先生を参加させるための餌なんでしょう?」

「お前が行くなら参加するとかぬかしやがる。というわけで、頼む」

イルカはアスマの方を向き、ニッコリと笑った。

「いくら、くれます?」

「とりあえず、お前とカカシの飲み代はタダだ」

「いくら、くれます?」

「暇な時間にタダ飯タダ酒以上に何を望むんだ?」

その言葉にイルカは目を見開く。

「暇だと言った覚えはありませんよ。寝るという予定を変更するんですから、アルバイト料ください。紅先生あたりから、お金を貰ってるんでしょう?」

手を差し出してくるイルカの姿は、まさに一時間前の自分の姿と同じで、アスマは渋々財布から札を取り出し、渡した。これは必要経費だから、後で紅に請求しよう。

ちょうどその時、扉が開いた。イルカは片手を上げて話しかける。

「良いタイミングだ。あぶく銭が入ったから、今日飲みに行かないか?」

無言でアスマに殴られる同僚を見て、開いたばかりの扉を閉じた人物は、物音も立てずに去っていった。

「酷いです」

頭をさすりながら、イルカが非難の目をアスマに向ける。

「お前が握り締めている金が何のために支払われたのか、もう一度考えようや」

煙を吐き出しながら、どこか優しげな表情で告げるアスマは、次の瞬間、何者かに殴られた。

「カカシ先生、お疲れ様です。どっからわいたんですか?」

「イルカ先生、お疲れ様。どこから現れたかは企業秘密です」

「痛いわ!」

和やかに挨拶する二人に、アスマが怒鳴った。

「自業自得。イルカ先生を殴るなんて」

「俺は被害者だよ!」

「カカシ先生を飲み会に参加させるために、アルバイト料を貰いました」

「それじゃあ、その金で二人で夕飯食べましょうか」

「豪華な食事はできませんが……良いですか?」

「おい、アスマ。もう少しくれ」

「お前ら、俺と会話しろ」

再び殴られたイルカと避けたカカシ。二人は静かに顔を見合わせた。

「無駄に上忍なもんで」

「中途半端に中忍なもんで」

「つまり必要なのはグリコーゲンではなくグルコースということですね?」

「いえいえ、判断を下すのは早計ではないでしょうか」

真面目な顔で語り合う二人に、アスマが訝しげに口を挟む。

「お前ら、今ので本当に会話がなりたってるのか?」

「カカシ先生が何をおっしゃっているのやら、まったく」

「いまいち理解不能」

「……勘弁してくれ」

頭を抱えるアスマに同情してか、はたまた気まぐれか、二人はその一時間後に始まった飲み会の席に顔を出していた。

「ご苦労様」

上機嫌の紅がアスマに声をかける。

「お前、あいつらから、いくら貰ったんだ?」

カカシの周囲を取り巻く女達を見ながら尋ねた。結局、紅は何もしていないのだ。全額自分にくれても良いんじゃないかとさえ思う。

「あの金額で引き受けたのはあんたでしょうが」

察した紅は、交渉するだけ無駄だと手をヒラヒラさせた。

「……まぁいい。それよりイルカを参加させるために少し使った。必要経費だ」

「領収書ある?」

「アホか」

「アホと罵られると愉快な気分じゃないわね」

「じゃあ何て言やぁいいんだよ」

「女豹?」

「お前もたいがい頭わいてるぞ」

金はもういい。だからソッとしておいてくれ。

そんな雰囲気をまといながら、アスマは一人、酒を飲み続けたのだった。


2005.10.09

close