機嫌

イルカの家の玄関を開けると、家主がダラリと横になっていた。

「……えっと、お邪魔します」

手土産を引っさげたカカシが遠慮がちに声をかけて靴を脱ぐ。

「えらくダレてますが、といいますか、最近よく見かける光景なんですが、何かありましたか?」

「扇風機が壊れました」

「はぁ」

「あれは、俺が風呂からあがって、至福のひと時を過ごそうとしていた時の事です」

「結果を先に喋ったのに、回想入るんですか?」

「黙ってきく」

叱られたので、カカシはイルカの前に腰を下ろした。なぜか正座をしている。

「俺は身体のことを考え、弱風にしていました」

「身体のことを本当に考えているなら、風呂あがりに扇風機は止めた方がいいですよ」

「しばらく涼んでいたんですが、事件は起きました」

「無視かい」

「がシャンと前のフタが下に落ちたかと思うと、プロペラが俺を襲ったのです!」

大げさな身振りで、イルカはその時の恐怖を身体で表現した。っが、カカシは「はぁ」と答えただけで、イルカを見つめている。

沈黙が辺りを支配した。

「……オチはありません」

「いや、別に期待はしてませんけど」

「これがそのプロペラです」

「見せられても」

「あっそう」

イルカは持っていた羽を部屋の隅に放り投げた。

カカシは、さて、どうしようかと窓の外を見やった。居心地が悪い。

「そうだ、手土産。ビールなんですけどね」

「毎回発泡酒を振舞う俺に対しての抗議行動ですか!?」

「いえ、ビールと言いましたが発泡酒ですよ」

「なんだ……」

憎たらしげな表情で呟くイルカ。

「そんな顔する人にはあげませんよ」

「すごく嬉しいです!」

満面の笑みを浮かべて両手を差し出すイルカに、「扱いやすいんだか、そうじゃないんだか」と思うカカシだったが、「現金なだけか」という答えに落ち着いたそうな。


2005.08.29

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