風呂あがり

イルカが真っ裸で腰を下ろし、気だるげに煙草を吸っていた。

「なんと言いますか、漢前な姿ですね。っつーか前隠せ」

「人んちに来て、いきなりな発言ですね。風呂あがりにこんな格好なんてカカシ先生も自宅じゃ珍しくないんでしょう?」

「しませんよ」

「紳士のフリするのは止めてください」

「いや、しないですよ」

「真性の紳士か、あんた!」

口から煙を吐きながら、目を見開く。

「いちおう腰にタオルくらい巻きますね」

「カカシ先生の家、誰かに覗かれてるんですか?」

一変して心配そうに訊くイルカに、カカシは目を細めた。

「どうやったら、そんな疑問がわいてくるのか俺には理解しがたいのですが」

「人を理解するのは難しいですよね。社会に出て本当にそう思います」

「真っ裸でなに真面目な話始めてんですか」

「会話をするのに格好は関係ないと思いますが」

「言っている事はもっともですが、現状を見ている俺にしてみれば、おかしいと感じずにはいられません」

「杓子定規な人ですね」

「すみません、案外普通の人間なんです」

そっとイルカにタオルを渡すカカシ。

「これ受け取ったら負けのような気がします」

「なんの勝負が行われていたんでしょうか」

「残念ながら、あなたにお教えすることはできません」

「もったいぶったところで、なにも考えてないだけでしょうに」

イルカが吸殻をグシャリと潰す。

「失礼な! 勝負は行われていました! なんか……なんかアレな感じで、それとなく男気のある……なんかアレ!」

「思いつきで喋るから意味が分からなくなるんですよ?」

「魂で理解してください」

「電波は受信できませんでした」

「教育的指導!」

イルカの拳がカカシの腹に入った。

「おっ……俺は何でこんな仕打ちを……受けたんでしょうか」

咳き込みながらカカシが尋ねる。

「分からないと口で言うのは簡単です。しかし、あなたは本当に考えましたか? 考える事を放棄して、安易に結論を出したんじゃありませんか? 仕事も含め、生活をしていく上で大切なのは理解する努力をすることです。それを怠ったがゆえに、俺は痛い思いをするにも拘らず、あなたの腹を殴りました」

「真面目に語っているところ悪いんですが、自分の言動を正当化するための言い訳にしか聞こえないのは気のせいでしょうか」

「気のせいです。といいますか、なぜカカシ先生がそんな結論に達したのか、俺には皆目見当もつかないのですが」

「理解する努力をしてください」

「あっそろそろ寒くなってきた」

「聞けよ」

いそいそと服を着るイルカの耳に、そんな言葉が届くはずもなく、カカシは正体不明の敗北感に苛まれたそうな。


2005.09.01

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