監督

「すみませんが、見たいビデオがあるんで!」

そう言って、誘いを断わり自宅に戻ったイルカ。

カカシがアスマ達と飲んで家に帰ると、そこには虚無感を漂わせたイルカがいた。

「えっと……ただいま」

「……はい」

「暗いね」

「おおむねいつも通りです」

沈んだトーンのイルカを見て、カカシの後ろからアスマが「今日は止めとくか」と声をかける。

「いらっしゃい、アスマ先生。しかし、なぜここに」

「カカシが家で飲みなおそうって言うからよ」

「なぜ俺の家に」

「それは知らん」

「まぁ……追求はやめておきましょう」

視線を逸らしているカカシをチラリと見やりながらも、イルカは招き入れた。

「ビデオ面白くなかったんですか?」

ビールの缶を開けながらカカシが訊ねると、イルカは無言でコクリと頷いた。

「開始十分でオチが読めました」

「それでも見たんですね」

「もしかすると俺の予想を覆すラストが用意されているのではと思いましてね」

「そういう期待はたいがい裏切られるもんだよな」

アスマは煙草を気だるそうに吐き出し、イルカの肩を叩いた。

「あれなら俺が撮った方が面白い! というわけで、アスマ先生、カカシ先生、ご協力お願いいたします!」

「お断りです」

「すまねぇ」

「即答ですか!?」

二人はコクリと頷いた。

「監督・巨匠イルカですよ?」

「自称でしょうが」

「とりあえず内容だけ聞いてみようじゃねぇか」

「さすがはアスマ先生。物はサスペンスです」

「ほぅ」

アスマは説明を促しながら、ビールを飲み始める。

「幾重にも張り巡らされた謎に立ち向かう平凡な青年にカカシ先生。明らかに疑わしい友人にアスマ先生を起用したいと思います」

「んで、ラストは?」

「夢オチ」

「B級でしょうが」

黙って聞いていたカカシがポツリと呟いた。

「爆破オチの方が良いですか?」

オロオロするイルカに「さらに最悪です」と容赦なく言い放つ。

「イルカよぉ。映画の評価をできる奴が、良い作り手になるとは限らないんだぜ」

アスマのもっともな意見に、イルカは項垂れた。

「アスマ先生の言いたい事は分かります」

「そりゃ良かった」

「作品の評価は、監督や役者がするものじゃない。観客がするものだとおっしゃりたいんですね?」

「お前、本当に俺の話を聞いてたか?」

「はい!」

「堂々と言い切るな」

その夜、撮る撮らないで問答が続いたそうだが、どんな結末を迎えたのかは当人のみぞ知る。

後にカカシは語る。

「俺、早々に会話から離脱してたから」

アスマはスケープゴートだったのだろうか。

それは永遠の謎である。


2005.07.26

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