目覚し時計
寝転がっていたカカシに近付いたイルカは、目覚し時計を両手に抱え、期待に満ちた表情で「声を吹き込んで下さい」と言った。 「俺の声で起きたいんですか?」 「自分以外なら誰でもいいんですが」 「嘘でもいいから『はい』って言って欲しいと願うのは我侭なんでしょうか」 「我侭もたいがいにしてください」 「願っただけで、この言われよう……」 カカシは腑に落ちない顔をしていたが、まぁいいやと上半身を起こし、胡坐をかいた。 「何て吹き込んで欲しいんですか?」 「普通に起こしてくれる時の感じで」 そう言って録音ボタンを押した。 「起きてください」 少し甘ったるい声で囁くと目の前のイルカが「起きれるかー!」と怒鳴って停止ボタンを押した。 「そんな優しい声で、あまつさえ丁寧な口調、これで起きろだなんて俺に対する挑戦ですか!?」 「一緒に録音された、あんたの怒鳴り声で起きれるんじゃないかなぁ」 ぼやくと、 「他人の声で起きるのが今回のテーマだと申し上げたはずです」 真面目な顔で返された。 「多少認識の違いがあるようですが、確かに言ってましたね」 「では、チャンスをあげます」 「いりません」 「タダですから」 「体力消耗している分、体内の財がマイナスになっています」 「それ以上消耗したくないでしょう?」 嫌な笑みを見せるイルカに、カカシは「しょうがありませんねぇ」と呟くと息を吸い込んだ。 「起きろー!」 「もっとリズミカルに!」 「起きろ〜起きろ〜起きろ〜」 「小気味よく!」 「起きろっ起きろっ起きろっ」 もう限界ですとばかりに、カカシが情けない顔をすると、イルカは肩を竦めて見せた。 「最後のでよしとします」 微妙な表情で言うイルカが少しだけ憎いカカシであった。
休日の朝、夜更かししたイルカは起きそうもなく、カカシはとりあえず珈琲でも飲むかと布団を後にした。 途端、鳴り響く目覚し。 「起きろっ起きろっ起きろっ起きろっ起きろっ」 あぁ、休日にセットしなくても……。 カカシは溜息を吐いて、目覚しを止めようとした。 ──ガシャン イルカの拳で破壊された目覚し。それでもそれは役目を果たそうと最後の力を振り絞っていた。 「起きろっ起きろっ起きろっろっろっろっろっろっ」 一発殴ってみる。 「ろっろっろっろっろ──────────────────」 あまりの怖さに粉砕した。 残骸を元の場所に置き、イルカの腕をその上に乗せる。 一仕事を終え、カカシは当初の予定通り、珈琲を飲みに部屋を出て行ったのだった。 2005.06.21 |