鼻血

カカシは指で鼻を擦りながら唸った。

「何か知らんが鼻血出そう」

「別に俺脱いでませんよ?」

「何であんたの裸体見て、俺が鼻血出さなきゃなんないんですか」

「意外とセクシー」

「へぇ」

そこで会話を終わらせたカカシに、イルカは腹めがけて一発入れた。

「そこは『頭わいてんですか?』くらいの返しをするところでしょう!」

「やかましい! 鼻から血以外の物が出そうになったわ!」

「へぇ」

興味なさそうに背を向けたイルカに、カカシは「他人に言われると腹の立つ返しですねぇ」と呻くように言った。

「何でですか?」

クルリと振り向き、無邪気であり無防備な表情で小首を傾げるイルカ。

「ワンランク上の嫌な返しですねぇ、それ」

「研究の成果が出たようです」

「そんなもん研究せんで下さい」

「研究熱心だと褒められると思ったんですけどねぇ」

眉間にシワを寄せるイルカに、カカシは無言で先程のイルカと同じように小首を傾げて「どうしたの?」とでも尋ねそうな表情を作った。

瞬間、顔面にイルカの頭突きを食らった。

押さえる指からポタリと赤い血が流れる。

「……鼻血出て良かったですね」

「出そうだって言っただけで、出したかったわけじゃないわー!」

腰を上げて掴みかかる体勢に入ったカカシを両手で制する。

「部屋が汚れるんで、まず詰め物をお願いします」

「あっ……はい」

素直に従うカカシ。詰め物をし終わった頃には勢いを失い、改めて報復するために立ち上がるのもなぁ、などと気持ちを落ち着けた。

捕まえるタイミングを失っただけで、怒りがおさまったワケではない。

「すごくモヤモヤとしているんですが」

「体力余ってるなら風呂掃除お願いします」

「はぁ……」

納得がいくワケもなかったが、カカシは風呂掃除をした。身体を動かしたからだろう。怒りが達成感へとすり替わる。

『はたけカカシ・案外単純』

イルカは手帳にそう記し、カカシが足を滅多に踏み入れない台所の、調味料置場の奥にソッと戻したのだった。


2005.06.19

close