御機嫌とり
「俺、もしかして最近カカシ先生に冷たかったですか?」 仕事が忙しくて素っ気無かった自分を振り返り、機嫌の悪いカカシに直接尋ねてみた。 「別に、いつもが優しいってわけじゃないし」 両膝を抱えて、カカシは身体を前後に揺らしている。 「男に優しくしてどうするんですか」 「今しがた『冷たかったですか?』なんて訊いといて、あんた……」 「優しい優しくないはどうでも良いんです。ないがしろにしてましたよね、ごめんなさいって話なんですから」 カカシは納得のいかない表情を浮かべながら、「確かに冷たかったというか、近寄るなって感じでしたよね」と言った。 「まさにその通りなので否定のしようもないんですが」 「ひでぇな、おい」 「それぐらいで拗ねるなよ、上忍」 「さらに追い討ちかけられるなんて! 俺、何か悪い事しました?」 「とりたてて問題にするほどの悪事は働いてないと思われますが」 「じゃあ……」 カカシは座ったまま、イルカとの距離を縮めた。 「こんな話をするって事は、仕事が一段落したんですよね?」 「俺、そんな事言ってませんよ」 あっさり否定されたカカシは「思わせぶりに振っといて、酷い!」と叫ぶが、無視された。 「とりあえず仕事が中間地点まできたので、ここらで少し御機嫌とりしとこうかと」 「なんと言いますか、御機嫌とりって言われると、ありがたみが薄れますね」 「機嫌とろうとするだけマシでしょうに」 「それもそうなんですけどね」 「それじゃあ、俺仕事するんで話しかけないでください」 「えっ……?」 呟きを漏らしたカカシを無視して、イルカは仕事を始めてしまった。気を引こうと手を振ってみるが、相手にもされない。 「あの……全然癒されてないんですけど」 沈黙が訪れる。 「本気で機嫌とる気ありました?」 やはり沈黙で返された。 カカシは再び膝を抱え、味気なかったけれど、これがイルカなりの精一杯の優しさなのだと納得する事に尽力した。 その努力は徒労に終わった。 2005.06.14 |