入浴剤

イルカが買い物袋から出した一つの物体にカカシは目をとめた。

「入浴剤は良いんですけど、20もとうの昔に越えてんのに玩具付きは如何なものかと」

「その裏にある注意書きって面白いですよね。その他の用途には使用しないでくださいとか書いてあるんですよ。誰か別の事に使ってクレームでも入れたんですかね」

「俺はあんたにクレーム入れたいよ」

「なぜです?」

イルカは無防備な表情で小首を傾げた。

「最近思うんですが、ワザとでしょ」

「嫌だなぁ。演出ですよ」

「同じだ!」

「って言うのは冗談で、何に腹を立てているのやらサッパリ」

「人の話を聞けって言ってんですよ」

「聞きましょう」

そして暫しの沈黙。

「……あぁ、そうだ。玩具付きの入浴剤ってどうよって話です」

脇道にそれた為、忘れてしまっていたようだ。

「いいじゃないですか。これ面白いんですよ。入浴剤のボールが溶けると、中からリアルな蛙が出てくるんです」

「面白いって言うか……キモいよ?」

いや……本気で。カカシはそう付け加えると、心底嫌そうな顔をした。

「蛙と風呂に入れるチャンスです」

「入りたくねぇだろう、普通」

「何事も経験です」

「言葉の使い方、間違えてますよ」

「細かい事はいいじゃないですか。それより先に風呂に入っちゃってください。その間にご飯の仕度するんで」

「蛙は勘弁してください」

そんな発言を無視して、イルカはボールをカカシに手渡した。

「対象年齢6歳以上って書いてあったんですけど」

子どもじゃあるまいし。カカシは心の中で付け加えた。

「6歳以上だから心配ないですね」

どうやら拒否権はないようだ。

渋々風呂に向かったカカシは、躊躇いながらもボールを湯に入れた。音を立てて湯の色が緑に変わっていく。身体を洗ってから浴槽に入ると、芯から温まるような気がした。匂いも良い。思わず口を開けてリラックスしてしまう。

やがて音がしなくなり、緑の液体から玩具が姿を現した。本当にリアルだ。どうしよう。

カカシは恐る恐る玩具を手にとってみた。ブニブニしていて気持ちが悪いはずなのにクセになる。気付けば、カカシは夢中で蛙と戯れていた。

「大人なのに」

イルカの声で我に返り、カカシは脱衣所を見た。隙間から覗かれている。

「もしかして、20越えて云々を根に持ってましたね?」

「ちょっとだけ」

そこには、勝ち誇った笑みを湛えるイルカの姿があったそうな。


2005.05.06

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