正直者

「仕事お疲れ様です」

イルカの家にビール缶のぶつかる音が響く。別に任務明けとかではなく、ビールを飲む前の挨拶みたいなものだ。

「イルカ先生、毎日毎日子どもを相手にして大変ですね」

「それを言ったらカカシ先生もじゃないですか」

「いえ、俺が相手にしてるのはあいつら三人だけですし、三人でも大変なのにイルカ先生は凄いなぁと思いまして」

苦笑いのカカシを見て、イルカはクスクスと笑った。

「でもね、実際……」

イルカはビールを置き、大きな溜息を一つ吐くと、少し沈んだ声で続けた。

「教師だからって聖人君子のように見られるのは辛いんですよ」

「見てねぇよ」

どこか愁いを含んだイルカに、カカシは冷めた視線を送った。

「イルカは精神にダメージを受けた!」

「本当は見られたかったんかい!」

逡巡の後、イルカはチラリとカカシを見やり「別にぃ」と呟く。

「そんだけ世に毒されてるくせに図々しいですね」

「今のはチロッとムカつきました」

「正直ですね」

「正直だけが取柄ですから」

カカシは相槌も入れず、 イルカの言葉を聞きながら酒を口に含んだ。

そして──ガスッと腹をに一発食らった。

「は……鼻! 奥……痛っ……!」

両手で顔を覆いながらのた打ち回る。どうやら変なところから液体が出そうになったらしい。

「フォロー入れろよ、上忍!」

「言いたい事はそんだけかー!」

「……ビール缶の後片付けよろしく!」

敬礼してそう言った次の瞬間には、イルカの姿は寝室へと消えていた。

「『言いたい事』の内容違うわ!」

叫んだところで戻ってこない。

カカシは後片付けをしながら、少し泣いた。


2005.04.11

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