「イルカ先生って、何で教師になったんですか?」

「夢だったんです」

イルカは湯呑を片手に答えた。唇の端を少し上げ、優しく微笑んでいる。

「俺より偉くなろうとする舐めた子ども達に厳しい現実教えるのが」

「誰だ、こいつに教師の職を与えたヤツは!」

「嫌だなぁ、冗談ですよ」

半眼で笑うイルカを見て誤魔化されるヤツはいないだろう。

「本当はね」

秘密を打ち明ける子どものような表情で、イルカはそこで一息おいた。

「パブロフの犬を育てようかと」

「内容変わってないどころか、さらに悪いわ!」

「子どもの頃から教師が絶対的存在であると刷り込んでおけば……まぁ後は説明の必要もないでしょう」

カカシはイルカの目を真っ直ぐ見た。

「転職してください」

「天職だと思ってます」

「冗談ですよね」

「はい、冗談です」

お互い顔だけ笑っている。

「最近では生徒達、俺が何を言っても『イルカ先生の言うとおりです』ってちゃんと答えられるんですよ」

「計画進行しちゃってるよ!」

カカシはガタガタと震えながら目を泳がせた。

「でも仕事の話ですし、今の俺達には関係ないですね」

イルカの言葉にカカシの震えがピタリと止まる。

イルカ宅の居間で、二人で和んで食後のお茶。

「それもそうですねぇ」

ニッコリ笑ったイルカにつられて、カカシも微笑んだ。

こうしてイルカの計画は着々と進み続けるのだった。


2005.03.06

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