服を買いに
今日はカカシ先生と服を買いに来た。 勿論俺の服だ。 あまり外出する方ではないが、さすがに毎回同じ服だと変化を求めたくなる。 「というわけで、面白い服はありませんか?」 「あんた、店員になんて切り出し方してんですか」 「えっと、この辺に」 ガサゴソと引き出しを開けて探し出す店員に「あるんかい」と呟くカカシ先生。 スキンヘッドにレザージャケットの店員が、爽やかな笑みを湛えながら「何でも取り揃えているのが、うちのウリなんですよぉ」と言った。 「この店員がいる時点で、店の選択間違えてるだろ」 「なんて事を言うんですか! 今時、素肌にレザーを着込む勇気のある店員さんなんて、そうそういませんよ? 謝ってください」 「いや……いいんですよ、お客さん。分かる人には分かる。私はそれで満足なんですから」 俺はこの店員さんと仲良くなれそうな気がする。彼は自分を貫き通すだけの信念を持った男だ。 「今の……褒めてたんですか?」 カカシ先生の呟きを無視して、俺は店員さんの出す服をジッと見つめていた。 「あったこれです。袖に猫の尻尾を模したフリンジが付いてるんです」 「うわぁ、おもしろーい」 「待たんか! 『おもしろーい』じゃねぇ! 面白いだけじゃないか!」 「面白い物が欲しいんです」 「駄目、却下」 「えぇぇ」 不満そうな声を出しても、カカシ先生は前言を撤回してくれそうにない。 「実用性に欠けるとか思ってるんですね。大丈夫です。肩に付いているボタンを押すと……」 ガショッと音がして、フリンジは袖の中へと収納された。店員の顔が誇らしげに輝いている。 「すごーい!」 「そんなギミック付ける暇あったら、もっとデザインを重視せんか!」 「こちらのお客さんのご希望に沿うのは難しそうですね。しかし、私もショップ店員の端くれ!」 そう叫び、白くてモコモコした服を取り出す。 「全身ウサギの毛で作られたウサギスーツ! オプションで耳も付いてきます」 「それはちょっと可愛過ぎるかな。どう思います?」 「どうも思うか! どんなフェチ野郎を対象にした店なんだ、ここは!!」 「さっきから怒鳴ってばかりで、いったいカカシ先生はどんな服が良いと思ってるんですか?」 「ジーンズとシャツでいいでしょうが」 俺が溜息交じりに「それじゃあ、面白そうなジーンズとシャツを……」と言うと、「面白くなくて良いです」と隣から付け加えてくる。 カカシ先生と来たのは間違いだったか。 俺は本気でそう思った。 「これは私の一押しですよ」 店員はこれまでのやり取りで気分を害した風もなく、むしろ活き活きとした表情でシャツを広げた。 「私の顔のプリント付き!」 顔の下にはなぜか『俺好み』の三文字。 「いるか、バカタレ!」 名残惜しそうにシャツへと手を伸ばす俺を引きずって、カカシ先生は店を出た。 今度は一人で行こう。それまで売れてなければいいが……。 俺は心の中で、またの来店を店員に約束した。 通じたのかは分からない。 しかし、店員は唇の端を上げ、確かに、そしてハッキリと頷いた。 2005.02.07 |