深夜

「暇だな」

夜中に目が覚めてしまったイルカは、さてどうしたものかと思案する。

「……とりあえずヒゲでも描くか」

イルカは、カカシの鼻の下に横長の長方形を描き、中を塗り潰した。

スヤスヤと眠る男の顔をジッと見つめ、溜息を吐く。

「あんまり面白くない」

とりあえず脳天に旗でも立ててみようか?

それとも眉毛を剃ってやろうか?

いっその事、ツルッパゲなんてどうだろう?

案を出してみるものの、どれもイマイチ。

「……イルカ先生、起きてたの?」

寝ぼけ眼のカカシと目があった。どうやら起こしてしまったらしい。

「目が冴えてしまって暇なんです」

「それじゃあ、少し酒でも飲みますか? 付き合いますよ」

カカシは上半身を起こすと、大きな欠伸をしながら言った。

「ありがとうございます」

イルカはカカシの心遣いに、素直に礼を述べた。

他愛のない話をした。時には仕事の愚痴をこぼしたりもしたが、カカシは嫌な顔もせずに親身になって聞いてくれた。眠る前にイルカは心を込めてもう一度「ありがとうございます」そう言って笑った。

 

次の朝、カカシが片手で口元を押さえながら洗面台の前に立っていた。

「イルカ先生……ですよね」

「鏡に映ってるのはカカシ先生ですよ」

「そんな事は聞いてませんよ。このヒゲを描いたのはあんたかって訊いてるんです」

「分かってるくせに」

「な……殴りてぇ」

タオルを持ったカカシの手が鼻の下で小刻みに揺れている。落ちないであろう事は本人も分かっているだろうに。

「ところで、コレいつ描きました?」

「カカシ先生が酒に付き合ってくれる前」

「それじゃあ、俺はこんなツラであんたの話を真剣に聞いてたんですか!?」

「そんなツラの人間相手に、俺は真剣に話をしてたんですよ」

「心の底では笑ってたんですね」

「いえ、面白くなかったから笑いませんでしたよ」

「まるっきり描かれ損!?」

叫ぶカカシに、イルカは神妙な面持ちで頷いた。

朝っぱらから、ちょっとした喧嘩になった事は言うまでもない。


2005.01.09

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