黒の卵

「カカシ先生、俺今日ちょっと面白い話を聞きました」

「何ですか?」

「ゴキブリの卵って火をつけると爆発するらしいんです」

「……ふぅん」

カカシは嫌な予感がして、とりあえず興味のないフリをした……というか、本当に興味がなかった。

──とりあえず話題を変えよう。

そう思って口を開いた瞬間、「ストップ!」とイルカが手で制する。

「とりあえず話題を変えようとしましたね?」

「……別にぃ」

「またこの人ワケ分かんない事言い出すぞって思いましたね?」

「……思ってませんよ」

ちょっとしか。

カカシは心の中で付け加えた。

「っというワケで、ゴキブリの卵を探す旅に出ましょう」

「……」

イルカは反応してこないカカシをチラリと見やった。

「付き合いが長くなると、言葉にしなくても何となく考えている事が分かってしまうってのは本当ですね」

「それは良かった」

「では行きましょう」

「分かってねぇ!」

「何で嫌がるんですか?」

「常識で考えてください」

「己の常識が世間一般で通用すると思っているんですか!?」

「少なくとも大多数は俺を支持するわ!」

イルカはカカシの叫びを最後まで聞き、そして溜息を吐いた。

「マイノリティの意見を無視するのは、いかがなものかと」

「すみません、時と場合によります」

「知的探究心を殺せと言うのですね?」

「やるなら一人でやれと言っているだけです」

「後で見たいって言っても見せてあげませんからね!」

イルカはあり得ない未来を想定しての捨てゼリフを残すと、走って行ってしまった。

 

ガチャリ。

イルカ宅の玄関が開く。

カカシは居間でお茶を飲みながらイルカを迎えた。いったいどこを探したんだか、泥にまみれて憔悴している。

「おかえりなさい」

「見つかりませんでした」

「産卵期じゃないもんね」

「……もっと早く言ってください」

イルカは虚ろな目で引きつった笑みを浮かべたのだった。


2004.12.05

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