腕を上げて

カカシが風呂からあがって髪をタオルで拭いていると、折り曲げた座布団を枕にしてダレていたイルカの目が、突如カッと見開かれた。

顔はそのままで、目玉を動かし、左にいたカカシの姿を捉える。

「何か変な玩具みたいで気持ち悪いよ、イルカ先生」

何も答えず、イルカはカカシを凝視したまま、上半身を起こした。

「な……何?」

四つん這いで異様な速度で近付いてきたイルカに、カカシは思わず後退する。

「腕、上げてください」

「はぁ?」

「だから腕、上げてくださいって」

「はぁ」

カカシはよく分からなかったけど、万歳をしてみた。

「ワキ毛がない!」

イルカは叫ぶと、恐る恐ると言った様子で尋ねてきた。

「……剃ってらっしゃる?」

「体毛薄いだけですよ」

「それじゃあ足も綺麗なんですね」

「まぁ遠目には綺麗だと言えなくもないと思いますが」

「すね毛でありんこが作れないなんて、男失格ですよ」

「それが男の資格だと言い張るなら、俺は失格で結構ですが。ちなみにイルカ先生は?」

ズボンの裾をめくって足をゴシゴシと擦る。

「ありんこビッシリ」

「いや、作らなくていいから」

イルカは真顔のまま、今度は上を脱いで腕を上げた。

「こっちもビッシリ」

「ぎゃあ! ……って、何で脇にカツラの一部くっ付けてるんですか!!」

「驚きました?」

「誰でも驚くわ!」

「カカシ先生、自分が驚いたからって他人も驚くと思ったら大間違いですよ」

やっぱり真顔でイルカは言った。

「いや……驚くと思うよ?」

カカシが自信なさげに小声で言うと、イルカは「これでいくか」と呟いた。

「……イルカ先生、外でそれやるつもり?」

「無事忘年会の出し物が決まりました」

「いや、ワキ毛見せられても盛り上がらないかと」

「手品のつもりだったんですが」

「やめときなさい」

俺でも手品って気付けなかったから。

カカシはその言葉を飲み込み、もう一度「やめときなさい」と繰り返したのだった。


2004.11.12

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