興味

物を長年愛用すると、壊れたり汚れたりするのは当たり前の事だ。

それでも使い続けてしまう物というのは、本当に大切な、手放せない愛すべき品であり、たとえガラクタと成り果てようとも自分にとっては宝──むしろパートナーと言った方が適切だろう──それに他ならない。

汚れすらも物を形成する一部でしかなく、宝が色褪せてしまうにはあまりにも決定打に欠ける理由であり、この世に長く生き続けているその証は、時に思い出としてさらなる愛情を芽生えさせる。

はたして、それは物に限定された愛情なのだろうか。

カカシはイルカの部屋の天井を見上げ、口を開けた。吸い込んだ煙は、手にした煙草から立ち昇る紫煙とは少し違った安っぽい白色で、解放されて我先にと天井に向かっていく。もしかすると色の違いは目の錯覚だったのかもしれない。しかし、カカシにはそう見えた。

「っというわけで、イルカ先生、一回汚れてみてください」

「お断りだ」

イルカはカカシの顎を狙って拳を上へと振り上げた。もともと天井を見上げていたカカシの顔がガギョッと変な音をさせ、ちょっとおかしな方向に曲がる。

「自分の背後が見える……」

「凄いですね」

イルカは自分のコップにビールを継ぎ足し、空になってしまった瓶を置くと、カカシの手から煙草を取り上げて火を消した。

「イルカ先生の顔が見えない……」

「身体を逆にすると見えますよ」

「助言はいらないので治してください」

「あんた、しばらくそうしてなさい」

「何で怒ってるんですか?」

不自然な格好のまま、煙草とマッチを探すカカシの手を叩き「危ないから吸わないでください」と注意してから、イルカは続けた。

「あんたの素朴な疑問のためだけに、なにゆえ俺が汚れなきゃならないんですか」

「興味というのは人生に潤いを与えてくれる物の一つですよ」

その場でカサカサと半回転するカカシに「気持ち悪い」と素直な感想を述べる。

「あんたのせいでしょうが」

「突き詰めると自業自得です」

「汚れてしまっても愛せるかどうか、それは非常に興味深い実験だとは思いませんか?」

「愛せなかったらどうするんです?」

カカシは暫く悩んでいたようだが、「それはあり得ないですね」と言った。

「結果分かってるんなら、最初からしなくてもいいでしょうが」

イルカはカカシの後頭部を先ほどと同じように殴った。頭が異様な速度で半円を描き、その後、ユックリと正常な位置に落ち着いた。

「治った」

「対カカシ先生用の治療なので、他の方にしちゃいけませんよ」

「まったく乱暴なんだから」

カカシは頭を左右に振って本当に治った事を確認すると、クルリと振り返って世間話を始めた。

どうやら答えが出たので、さっきまでの会話を綺麗に忘れているようだ。

所詮、カカシの興味なんてこの程度なのである。

こうして、二人は何事もなかったかのように再び飲み始めたのだった。


2004.11.03

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