髪型

イルカは頭を洗いながら、自分の髪をヒョイと摘んでみた。

けっこう長い。

「イルカ先生、髪を切る気ですか!?」

突然風呂場の扉を開けて、カカシが服を着たまま乗り込んできた。

「濡れるから、それ以上入ってこないでください」

「それじゃあ脱ぎます」

「あなたのケツエクボ好きじゃないんで、脱がないでください」

カカシはショックを全身で表し、フラフラと脱衣所の壁に手をつくと「俺の限定ですか?」と尋ねた。

「限定じゃないです」

「俺のだけでも好きになってみません?」

「そんな努力はお断りですね」

イルカは微笑みながら、手を伸ばして扉を閉めた。

しばらく「イルカ先生」という呟きとともに扉をカリカリと引っ掻く音が聞こえたが、それも少しの間で、相手をしてくれないと悟ったのだろう。気配が消えた。

風呂から上がると、カカシはテーブルの前でビールを飲んでいた。

「っで、イルカ先生、髪切るの?」

「切ろうかと思ってますが」

イルカは冷蔵庫から缶を取り出し、カカシの正面に座ってそれを開けた。

「何か問題でも?」

「他のヤツと見分けがつきにくい」

「あんたの愛情はその程度か!」

「いえ、鼻に傷があるから見分けはつきますよ。つきにくいってだけで、本当につかないワケじゃないんで心配しないでください」

「俺の特徴それだけですかい」

カカシは少しの間沈黙していたが、やがてヘラリと笑って「ビール旨いですね」と話をそらした。

「それだけなんですね」

イルカはどこか虚ろな表情で笑う。

「ほ……他にもいっぱいありますよ!」

カカシは慌てた様子で手をバタバタと動かし、そして続けた。

「えっと……中忍?」

「それは特徴じゃねぇ!」

「……」

「そこ、黙るな! もっと俺の特徴を挙げる!」

カカシはイルカを見つめ、そっと身を寄せた。

「怒鳴ってるイルカ先生、素敵」

「嬉しいです」

そう言ってカカシの背に腕を回すと、身体が面白いようにビクリとはねた。

「あんたなんかイルカ先生じゃねぇ! イルカ先生はこんな時『アホか!』って叫ぶんだ!」

イルカを突き飛ばし、両腕で自分の身体を抱きながら、ガタガタと震え出す。

「おやおや、すっかり疑心暗鬼になってしまって」

イルカは意地の悪い笑みを見せた。

「俺の純情もてあそんで楽しいですか!?」

「七並べよりは面白いけど、ポーカーよりは退屈ですね」

「例えが微妙過ぎて、イマイチ分かりません」

「これだから犬好きは……」

忌々しそうに呟いた。

「まったく関係ねぇ!」

「まぁ、そんなどうでもいい事は置いておいて、俺は髪型を変えようかと思いますが、いかがでしょう。反対意見は無視します」

「俺の叫びを無視した上、反対意見も聞き入れてくれないんですか!?」

「人の意見に左右されるようでは、これからの人生やっていけませんよ?」

「それじゃあ意見を求めんでください」

「それもそうですね。まぁ切るかどうするかは明日考えましょう」

二人はビールを空けると、狭いベッドでさっさと眠ってしまった。

 

次の日、カカシが目を覚ますと、隣にモヒカンのイルカがいた。

「おはようございます」

「忍べよ、中忍」

カカシはそう言った後、普通に「おはようございます」と付け足し、さっさと顔を洗いに行ってしまった。

イルカはその背を見ながら、溜息交じりでヅラを取る。

「何だ、アッサリ見分けがつくんじゃないか」

面白くなさそうに呟いたイルカは、朝食の準備をするために台所へと向かったのだった。


2004.10.28

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