矢
仕事合間の休憩時間。 イルカは木の生い茂った場所を歩いていた。 暇である。 「あそこに見えるはカカシ先生」 イルカは暇潰しを発見して、木の陰にそっと隠れた。 木にもたれかかって本を読む彼との距離は、約20メートル。 懐から吹き矢を取り出し、先に痺れ薬を塗りつける。 「イルカ、何やってんだ?」 「ああ、アスマ先生こんにちは。カカシ先生がいらしたんで、ちょっと狩ろうかと」 視線を標的に固定したままのイルカに、「ほどほどにな」そう言ってアスマは背を向けた。 フッ! 吹き矢がケツに刺さり、アスマがスローモーションで地面に倒れこむ。 「俺で試すな!」 アスマの叫びは、イルカの手によって遮られたため、声になる事はなかった。 「威力は確かですね。とりあえず、騒がれるとアレなんで、黙っていてください」 なおも声を出そうとするアスマにボディブローを一発。 「さて、練習も終わったし、次はカカシ先生だ」 「俺に吹き矢を向けるんですかぁ?」 心底嫌そうなカカシの声が背後から聞こえた。 振り向きざまに、イルカは矢を放つ。 ペシッ。 本で叩き落とされた。 「やはり正面からでは無理なようですね」 「では、止めましょうか」 「そうはいきません。秘技・吹き矢乱れ打ち!」 ペシッペシッペシッ。 「……バレるような技名を口にしてから吹かないでくださいよ」 本を軽く振りながら、カカシが言った。 「技名を言うのって、何だかヒーローっぽいじゃないですか」 「もっとヒネッた名前だったらね。どう考えても今のはザコキャラの足掻きっぽいですよ」 「失礼な!」 次の矢を用意しようとしたその時、遠くでイルカを呼ぶ同僚の声が聞こえた。 「……それじゃあ、俺は仕事に戻りますね」 「あんた、何しにきたんだ?」 「暇潰し」 踵を返し、受付所へ向かうイルカの横に並んで歩きながら、カカシは今日の夕飯の事などを尋ねてみた。 「カカシ先生は何が食べたいですか?」 「一緒にカレーでも作ります?」 「いいですねぇ」 和やかな雰囲気の中、他愛もない会話を楽しむ二人。 そしてアスマは忘れられたのだった。 2004.09.24 |